23.契約の儀式②
その後、水の精霊、土の精霊と試してはみたものの、結果は全て同じであった。
必ずしもそうとは限らないが。片倉慎十郎だった時分におこなった契約が、今世においても継続しているという事なのだろうか。
兎に角エリスが言うには、いくら初めてであっても、ここまで精霊の出現自体しないというのは普通あり得ない事らしい。
精霊との契約が、召喚者の持つユニークスキルと同じような理屈のものだとしたら、それらは魂自体に刻まれるとでも言うのだろうか。
僕としては、当然そうであって欲しいと思う。ドレミの話していた言葉の意味が、良い方である事を信じたいところだ。
あとは、それをどう証明するのかであるが。その方法として最も確実なのは、実際に魔法が発動するのかを試してみる事である。
エリスも同意見だった事もあり、僕たちは屋外で魔法の試しうちをするため、一旦部屋を出て館の敷地内にある広場へと向かった。
移動の途中、僕の心は落ち着かなかった。エリスは、あんな風に言っていたものの、単純に僕がイレギュラーすぎる存在であるだけなのかもしれない。
自ら確認する方法を提示しておいて、実際に試した結果「やっぱり魔法は使えませんでした」なんて事にでもなったら、恥ずかしすぎて頭が真っ白になってしまいそうだ。
僕の記憶の中に、確かに片倉慎十郎という人物の人生を送ったという記憶はある。アムが言っていたユニークスキルの件も、それを裏付けるものだ。
しかし、エリスとの記憶が全くない以上、僕はその事を確実視する自信が持てないでいた。
僕を広場に連れ出したエリスは、辺りを見回しながら少し悩んでいる様子だった。
恐らくは、試すといってもどんな魔法を使って良いものかと考えているのだろう。
そこまで悩むほどの事はないと思うが、彼女なりにいろいろな想いがあるのかもしれない。
しばらく考え込んでいる様子のエリスだったが。ようやく口を開いた彼女の言葉は、僕が予想していたとおりのものだった。
「上級の魔法だと、いくら広いからといっても危険すぎるし。詠唱もそのぶん長くなってしまうから、初級の魔法だけ試してみましょ」
エリスは、そう言うと手のひらを前方に向け呪文を唱える。
~火の精霊よ、渦巻く炎を現し敵を焼き尽くせ~
「火炎!」
詠唱と同時に、数メートル先の地面から渦巻く炎が発現する。十数秒に渡り炎は燃え続け、彼女が手を下ろすと同時にそれは消失した。
「この魔法は初級で火力自体は弱いけど、けっこう使い勝手が良い魔法なのよ。魔力と引き換えにして、時間制限なしに発動し続ける事ができるわ」
魔法の本も無しに、どう試すのかと疑問に思っていたが。要は、自分の真似をしろと言う話か。
僕は、さっき彼女が唱えていた呪文を思い出しながら、右腕を前方に出して手のひらを先程の場所に向ける。少し緊張するが、何事も思いきりが大事だ。
自分ならできる。そう信じて、僕は一気に集中力を高め呪文を唱えた。
~火の精霊よ、渦巻く炎を現し敵を焼き尽くせ~
「フロガ!」
呪文を唱えた後、数秒の沈黙が流れる。
やっぱり駄目だったのか。そう諦めかけた瞬間、僕の数メートル先に突如として炎が出現する。
チラッとエリスの方に目を向けると、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「やったわ! 一回の詠唱で成功させるなんて凄いことよ。転生しても魂が同じなら、契約は継続されるって事がこれで証明されたわね」
本人以上に喜ぶ様子のエリスに、僕は少しだけ複雑な感情を抱く。彼女の妄信的な態度は、少し恐怖を感じるくらいだ。
そろそろ魔法の発動を中止しても良い頃合いだろう。そう考え右手を下ろした瞬間だった。急速に意識が薄れていき、次第に全身の力も抜けていく。
足元から崩れ行くなか、エリスが僕を呼ぶ声だけが響いていた。




