21.司書の女④
ドレミがエリスに頼まれ持ってきた本は、魔法の契約に関するものだった。
表紙には契約の書、初級~中級、と書かれている。
さっき彼女が言っていた話の内容も気になるが、取りあえず中級までを試してみようという事なのだろう。
その本は、契約の儀式について書かれたものだったが。実行するには、それなりの準備が必要なようであった。
「それじゃ、これから屋敷に戻って儀式の準備に取り掛かりましょ」
エリスは、そう言って契約に関する本だけを抱えると、受付の方に向かって歩きだした。
僕は、言われるがままに彼女の後をついていく。
ドレミに本の片付けを頼み図書室を出た後、どうしても気になった僕はエリスに対しさっきの件について質問してみる事にした。
「司書のドレミさんとは仲が良いの?」
「いいえ、別にそれほど仲が良いわけじゃないわ」
意外な答えに僕は混乱する。これはもっと、詳しく訊ねる必要がありそうだ。
「仲が良いわけじゃないって、普通そんな相手に相談なんか持ちかけるかな?」
「ドレミってつい最近、宮廷に使えるようになったんだけどね。初対面で、わたしの能力を事細かく言い当てたのよ。他の人間が知らないような事まで完璧にね」
という事は、ドレミは他人の情報を細かく鑑定するスキルかなんかを持っているという事なのだろう。いや、待てよ。この世界の人間の中には、召喚者でなくとも特殊なスキルを所持する者が存在するというのか。
「ドレミさんは、そういったスキルを持っているって事なのかな?」
ここは探りをいれたところで、しょうがないと思った僕はストレートにそう訊ねてみる。
「さぁ、どうなんでしょうね。ただ、彼女の能力ってスキルとかではないと思うわよ」
「どうして、そう思うのかな?」
「だって召喚者にしか、そういった特殊なスキルは付与されないはずだもの。こちらの世界の人間は、後天的に身につけたものを『技能』として表示させるだけだわ」
彼女の話からして、この世界の人間もステータスを表示させる事ができるようだ。
ドレミの場合、後天的にそういった技能を身につける事に成功したという話か。
なるほど、何となく疑問は解けた。兎に角エリスは彼女の技能を知っている事を知っていたため、間近でじっと見つめるような行為に対しても怒らなかったわけだ。
あとはドレミの技能とやらが、どういったものなのか。詳細が気にはなるが。
まぁ、それについては、本人に直接教えてもらえるような事でもない限り知り得ないことだ。
僕が、彼女に対して抱いた興味の正体についてはわからないままだったが。今は、取りあえず良しとしておこう。
そんな感じで勝手に納得する僕だったが。これでひとまずは解決、と思った直後にアムが口出しをしてくる。
『最初から超能力的な能力を持っている人間も、希にいる事はいるけど。相手の能力を細かく見れるともなると、もはや鑑定スキルのレベルだわね。カケルちゃんの『空気』もレベルが上がってくると、それから派生して『鑑定』が新たに得られるはずよ』
良い話を聞かせてもらってありがとうアム。と言いたいところだったが、彼女が口出しした事で僕は余計に混乱した。
「ドレミの事が、そんなに気になるの?」
悲しげな表情で、唐突に訊ねてくるエリス。僕が、ずっと黙っていたせいで、そう勘ぐられてしまったようだ。
「ごめん、別に女性として興味があるとかいう事ではないんだ。ただ、いろんな意味で特殊すぎて面白いなって」
こんな事を言っても、とても誤魔化せるとは思えなかったが。意外にも彼女の反応は、さほど怒っていたり呆れたりした感じのものではなかった。
「まぁ良いわ。ドレミだったら多分、心配ないもの」
どうしてそう言いきれるのか。普通なら疑問に感じるところだろう。
しかし、僕は確信した。ドレミに対して抱いていた興味は、実は得たいの知れない違和感であったという事を。そして、恐らくエリスも、僕と同じ違和感を覚えているに違いない。
僕は、彼女の何気ない一言により、ドレミの正体についてある仮説を思い付くに至った。




