20.司書の女③
初級編を読み進めると、単純に魔法といってもかなり沢山の種類がある事がわかった。
最もメジャーなものとしては、火、水、土、風、と四つの属性魔法がある。其々に、初級、中級、上級、の三段階があり、その他には、神級、天災級、の二つが同列とされ最上位として位置付けられている。
それとは別に、聖属性魔法、闇属性魔法というのもあるようだが。使用できる者が限定的であり、滅多に御目にかかる事のない魔法のようだ。
極めてイレギュラーなものとして、古代魔法、超古代魔法というものもある。これは聖と闇の二属性魔法よりも、更に希少な魔法といえるものだ。
古代神との契約を個別におこなう事で、固有の魔法を扱えるようになる。
僕がこれから学ぶべき魔法は、身体強化に関する魔法だ。これにもかなりの種類があって、例えば攻撃力に関する能力は火属性、防御力に関する能力は土属性、といった感じである。
水は精神、風は俊敏さといった具合だ。
それらを複合して新たに作り出されたものが、強化魔法というジャンルであり、近接戦闘をおこなう職種においては必須の魔法となる。
考えてもみれば、近代兵器なども無いこの世界において、人が魔物共の脅威に対抗するためには確かに必要かもしれない。
もう一つ、近接戦闘の職種にとって有益なものとしては、魔道具による強化という方法もある。
これもまた、元からある魔法を利用して人が作り出した、比較的新しい戦闘方法なのだそうだ。
まぁ、わりとファンタジーな世界に馴染みのある僕としては、それほど特別な事などなく。体系的には、ごく一般的なものと言えた。
別に、魔術師を専門にする者とパーティーを組むなりして、強化はその人物に任せるという方法もあるが。どんな状況になるかもわからない事を考えれば、個人で取得しておくのは大きな保険となってくるわけだ。
因みにエリスは、神級ともいえるレベルの強化魔法を実践において常に使っているらしい。
という事で、エリスによる初級編の講義は概ね終了となったわけだが。まずは属性魔法を使えるようにするために、各属性の精霊と契約を交わす必要がある。
それについても幾つかの条件があって。まず適正が全く無い者は、初級魔法の契約すら交わす事ができないらしい。
適正と魔力の才能があれば、より高い段階の魔法を契約できるようだが。果たして僕はどの属性に適正があって、どの程度の段階まで契約をする事ができるのだろうか。
エリスの講義が取りあえず終わったところで、一冊の分厚い本を抱えたドレミがやってくる。
「お待たせしましたエリス様。ご所望の本をお持ちしました」
ドレミは、そう言って持ってきた本をテーブルに置くと、何故か僕を挟んでエリスとは反対側の席に座るという奇妙な行動をとった。
それに加え、かなり距離も近い。更にはエリスの事もお構いなしに、真っ直ぐと僕の事を見つめ始めた。
彼女の大胆な行動に、僕のこめかみから冷や汗が流れる。
クラスの女子と会話をしていただけで、あれほどの殺気を放つくらいだ。こんな状況を、エリスが許すはずもない。
しかし、そんな僕の懸念は杞憂に過ぎなかったようである。
「エリス様。わたしが言ったとおり、カケル様は貴女の想い人だったようですね。間近で分析したところ、魔法の契約も必要ないみたいですよ」
突然、そんな不思議な事を言い出すドレミ。
エリスは、彼女の言葉に微笑みを浮かべながら頷いた。
言ったとおり? てことは、エリスは僕の事に関して彼女に相談してたって事か。それにしても、自分以外の女がこれほど近づいているのに、全く怒る様子もないのは不思議だ。
色恋に関する相談をするくらいだから、それほど親交が深いとでもいうのだろうか。
「それではマスター。わたしはこれで、失礼しますね」
マスター? 俺に対して言ってるのか? いや、エリスが普段、彼女からそう呼ばれているだけなのか。
そんな僕の疑問をよそに、ドレミはすっと立ち上がり入り口付近にある受付へと戻っていく。
今の言動に対する反応が気になった僕は、もう一度エリスと目を合わせる。しかし、彼女は特に疑問を感じている様子もなく。ただ僕に対し微笑みを向けているだけだった。




