2.第七位天使アム
目の前には、ただひたすらに真っ白な空間が広がっている。
状況からして異世界ものに有りがちな、集団転移とやらに巻き込まれたのは間違いない。
しかし、こんなただ真っ白なだけの空間が、異世界とでもいうのだろうか。もっと中世のヨーロッパ的な世界を想像していた。
何もない白いだけの空間に一人ぼっちにされ、途方に暮れていた僕だったが。この状況に少し不安を感じ始めていたところで、目の前に突然白い靄が発生する。
その靄を注視しているうちに、それは次第にはっきりとした人の形をなしていき、ついには小さな女の子の姿となった。
「はじめまして、涼風翔さん。私は、ハーウェに仕える天使で、あなたを担当する事になったアムリリエルよ。これから私の事は、アムって呼んでね。第七位天使だけど、実力は高い方だから安心してもらって大丈夫よ」
体のわりに大きな翼を持った、銀髪に金眼の美幼女は、何の説明もなくいきなり自己紹介から入った。
まぁ、説明がなくとも、何となくどういう状況なのかはわかっているが。
「何となく理解はしていますけど、そのハーウェって神様? は、ずいぶんと強引な事をする神様なんですね?」
「神様のやる事だからね。人間に拒否権なんて有りませんよ」
僕の質問に対し、そう笑顔で答えるアム。穏やかな笑みこそ向けてはいるが。発言からもわかるとおり、彼女が人知を超えた恐ろしい存在である事は明白だ。
「それで、僕は何のためにここに連れてこられたのでしょう?」
何かいけない事でも言ってしまったのだろうか。僕がそう質問をすると、アムの表情から急に笑顔が消えた。
しばらく真顔で僕を見つめていた彼女は、困惑した様子でようやく口を開く。
「不思議ね。普通は、会話なんて成り立たないはずなんだけどなー。どうしてあなたは、私と普通に話す事ができるの?」
急にそんな訳のわからない質問をされたって、こっちの方が聞きたいくらいだ。まずは、その質問の意味から是非とも説明願いたい。
「そんな風に言われても、何の事だか自分にはよくわかりませんね」
こちらも困惑している様子をだしながらそう返すと、アムはその理由について語りだした。
「神界の者の気に当てられると、普通は人間なんて蛇に睨まれた蛙、みたいになっちゃうもんなんだよ。だからいつも、やる事さっさとやっちゃって、説明は行き先に任せている感じなのよね」
なるほど、やけに強引だと思ったらそういう事か。
拒否権なんて無いとも言っていたし、ここは変にごねたりせず素直に従った方が良さそうではある。
アムの言うとおり普通の人間であれば、ただこの状況に恐怖して相手の為すがままになるしかないだろう。
しかし、僕が従った方が良いと思った理由は、彼女の神気に恐れを抱いたからではなかった。
地球という世界に、最初から超越者として生まれ出た僕にとって、天使ごときの神気など恐れるに足るものではない。
ただ、僕が超越者であり、それからずっと転生を繰り返している、という事実を彼らに知られるわけにはいかないのだ。
僕が、急に黙り込んでしまった事で、観念したとでも思ったのだろう。アムは、フゥと軽く溜め息をつくと再び話し始める。
「まぁ良いわ。それじゃ、さっさと融合しちゃいましょうか」
そう言った瞬間、目の前にいた彼女の姿は消失する。本当に有無を言わさずというやつだ。
言葉のとおり、僕の周囲に取り憑くというだけでなく、魂を融合させようとでもいうのだろう。彼女の存在そのものが、僕の魂に干渉しようとしてきているのを感じた。
天使の分際で超越者である俺に融合しようなんて、身の程知らずもいいところだ。
自身の中に眠っていた太古の記憶が、彼女の霊体と融合する事を拒む。
僕は、自分の中に入り込まれまいと必死で抗った。
『ここまで親和性の無い人間も珍しいわね。この分だと、下手したら最低ランク確定かも』
頭の中でアムの声がそう響いてくると同時に、彼女の一部と僕の魂が繋がったのを感じる。しかし、完全に融合する事だけは避けられたようだ。
そして、再び僕の意識は深い闇へと飲まれていくのだった。




