17.解任されるロイス
翌朝、迎えにきたロイスと共に朝食に向かう僕だったが、正直かなり寝不足ぎみだった。
まぁ、あんな事があったのだから、その後なかなか寝付けなくなってしまうのも当然だ。
もう知らないと言って怒っていたアムも、結局あの後なにかと僕の事を弄ってくるし。ようやく眠りに就いた頃には、明け方近くになってしまっていた。
朝食を終えた僕に対し、ロイスがこの後の予定を伝える。と言っても、その内容は昨日と同じ場所に向かうというものだった。
城壁に囲まれた狭い訓練場に着いた僕とロイスを、エリスが一人で出迎える。
そわそわした様子で待ち構えていた彼女は、僕たちが到着するなり信じられない事を言い出した。
「ロイス! お前は、ここで担当者の任を解かれる。スズカゼカケルの担当は、このわたしが直接おこなう事になった」
急にそんな事を言われたロイスは「そんなバカな」といった表情をしている。
何か不手際があって解任された、と心配しているというよりも、普通にそんな事はあり得ないだろう、といった感じで驚いている様子だ。
宮廷の事など全くわからない僕でさえ、それがあり得ない話であるというのは理解できた。
「当然、皇帝の許可は直接とっている。スズカゼカケルには、特別な訓練が必要だからな。これから彼は、わたしの屋敷で預かりながら鍛練に励んでもらう事になる」
思いがけない事を告げられ、僕の眠気は一気に覚めてしまった。
昨日の事といいエリスという女は、ずいぶんと大胆な行動をする女だ。
「わかりました。エリス様がそうおっしゃるのなら、間違いではないのでしょう。では、スズカゼカケル様。短い間でしたがお世話になりました」
ロイスは、あっさりとエリスの話を受け入れ、そう僕に挨拶をするとすぐにその場から去っていった。
いやいや、だったら普通は命令書的なものくらい有るもんじゃないのか? 皇帝の許可を取る必要があるような事柄だとしたら、余計に口頭だけで済ませるような話ではないだろう。
そう僕が、エリスに対して突っ込む前に、彼女の口からそれがあり得る話であった事を告げられる。
「普段、そこまで我が儘を言う事はないのよ。でも、わたしは世間から、一人で騎士一万人分の戦力だと言われているわ。だから皇帝が相手でも、わたしが何か言えばけっこう通ってしまうものなの」
なるほど。という事は、ロイスが驚いた表情をしていた理由は、そんな権力を持ったエリスが僕を特別扱いしていたからか。
てか、一人で騎士一万人分? なんだよそれ! どんだけ化け物なんだよ、この女。
僕も比喩的ではあるが、一騎当千と呼ばれた事は過去の生において何度かあった。だが実際は、一度の戦場で一人の兵士が倒せる人数なんて、たかが知れているもんだ。
僕の場合、覚えている限りでは、一番倒した人数が多かった戦場でも30人というのが最高だ。
しかし、エリスの言い方からして、それが比喩表現に聞こえないところが恐ろしい。
それとも天近も言っていた強化魔法とやらを使う事で、向こうの世界の常識では考えられない程の力を得る事ができるのだろうか。
そんな僕の疑問は、次に彼女がおこなった説明で明らかとなる。
「昨日の模擬戦は、あくまでも素の状態だったからね。カケルが真の力に目覚め始めるまでは、魔法の力を借りて戦う必要があるわ」
『エリスちゃんまで、カケルちゃんと同じように痛いこと言っててマジうけるんだけど』
『うるさい! アムは少し黙っとけ!』
アムに茶々を入れられ、一瞬そちらに反応したためか、エリスは訝しげな顔をこちらに向けている。
しかし、どうやら彼女は僕の事情を理解しているようで、すぐに何が起きているのかについて指摘した。
「天使と会話しているんでしょ? シンジュウロウのときもそうだったわね」
「ああ、実はそうなんだ。人が会話してる最中にも、何かにつけて茶々を入れてくるから、けっこう困ってるんだ」
『なによ~! そんな風に言うなら、もうアドバイスとか有ってもしてあげないからね!』
そんなアムの言葉が、聞こえているわけではないのだろうが。エリスは、会話の内容を何となく察しているようだった。
「うふふ、あのときと全く変わらないわね。あまり邪険に扱いすぎると、天使さん拗ねちゃうわよ。それじゃ、次の場所に移動しながら、この後の事についてお話しましょ」
微笑みを浮かべながらそう言うなり、すぐに移動し始めるエリス。
『そうよ! わたし激おこなんだからね!』
怒りを露にするアムの言葉を無視して、僕も彼女の後を追ってゆっくりと歩き出した。




