16.深夜の訪問者③
『全く、あり得ないなんて話でもないわね。まぁ、なかなかレアなケースだとは思うけど』
ただでさえ、エリス教官と密着している状況に困惑している僕だったが。甘えてくる彼女に対し、どう反応して良いのかもわからず。ようやくアムが、疑問に答えてくれそうな雰囲気にもなり、興味を引かれた僕は一旦彼女を放置して天使との会話を優先する事にした。
『やっぱり別の人間に生まれ変わった場合、ユニークスキルが継承される事は基本的にない感じなのか?』
『そもそも過去に存在した人間の記憶がある事イコール、生まれ変わりっていう考え自体が間違ってるのよね。殆んどの場合、宇宙の図書館にたまたま繋がっちゃって、他人の記憶を引っ張っちゃっているだけなのよ』
なかなか興味深い話ではある。しかし、アムの言うケースに僕も該当するというのなら、少しづつ新たに思い出す内容が増えてきている事に対する説明がつかない。
それとも、そのアカシックレコードとやらに、今でも繋がりっぱなしだとでも言うのだろうか。だったら、こんな小出しにして他人の記憶を見せられるのも、全くもって意味不明だ。
『俺の場合も、あくまで他人の記憶を覗き見してるだけだって言うのか?』
『違うわ。過去に存在した人間と同じユニークスキルを持っているのなら、それは紛れもなく生まれ変わりって事で間違いはないわね。だって、ユニークスキルってものは唯一無二のはずだもの。だからカケルちゃんは、レアなケースの存在だって言ってるのよ』
なるほど。という事は、僕の場合は生まれ変わりで間違いないって話になるわけか。
何をもって、そう確信したのかはわからないけど。エリス教官がそんなに簡単に、他人の記憶を覗き見しただけの人間を想い人の生まれ変わりと思うはずもない。そう思ったからにはきっと、先ほどの説明にあった以上の直感みたいなものが働いたはずだ。
僕の方に、過去にもこの世界に来ていたという記憶がないのは、単にまだ思い出せていないだけなのだろう。
「シンジュウロウ……わたしにとっては、その呼びかたの方がしっくりくるんだけどね。あなたが違和感あるって言うのなら、これからはカケルって呼ぶ事にするわ」
僕の方を悲しげな表情で見つめながら、急にそう言い出すエリス教官。さっきからアムとの会話を優先するあまり特に反応しなかった事が、彼女の気持ちを不安にさせてしまったのだろうか。
「確かにそれもそうなんたけど、三百年前にもこの世界に来ていたっていう記憶からしてまずないんだ。今のところ片倉慎十郎だった記憶は、元服して間もない頃までの記憶だけなんだよ」
「わかってるわ。シンジュウロウも、最初の頃はそう言っていたもの。転生をする度に、大部分の記憶を忘れてしまうのよね? でも、必要に応じて思い出していくって言っていたわ」
そう言うと、エリス教官は僕の胸にそっと手を置き顔を埋める。
とても不思議だ。こんな超絶美女にこんな事をされているのに、もう完全に違和感なく受け入れている自分がいる。
彼女との記憶を思い出せないだけで、感覚的には何となく覚えてる部分もあるのだろうか。
「できれば他の連中に変な目で見られるし、俺の事はカケルって呼んでもらえると助かる」
「わかったわ、カケル。わたしの事も、ゆっくりでいいから、少しずつ思い出していってもらえると嬉しいわ」
全くもって健気なものだ。いくらそのうち思い出すかもしれないといっても、自分の事を覚えていないと言われ普通に許せるものなのだろうか。
そんな事を考えている間に、エリスの手が僕の大腿部をまさぐり始める。僕が何も言わないでいると、それを良いことに今度は胸のボタンに手がかけられた。
「いや、それはちょっと……」
僕がそう言いかけると、エリスはハッとした様子ですぐに体から離れ、姿勢をただしながら謝罪する。
「ごめんなさい……まだちゃんと、わたしの事を思い出してもいないのに少し大胆すぎたわよね? あなたがシンジュウロウだって確認できただけでも、嬉しすぎて死にそうなくらいなのにね……お互いに空いてしまった三百年の空白は、これからゆっくりと時間をかけて埋めていきましょ」
エリスは少し距離を取った状態で、しっかりと僕を見据えながらそう言うと、すくっと立ち上がりドアの方へと向かっていく。
ドアの前に立った彼女は、振り向き様に笑顔を向けながら「今日のところは大人しく帰る事にするわ。明日から楽しみね」と意味深長な言葉を残し去っていった。
俺のバカ、バカ、バカッ! あんな超絶美女と致せる絶好の機会をみすみす逃してしまうなんて……。
『カケルちゃんの変態! バカッ! もう知らない!』
エリスを帰してしまった事に後悔している僕に対し、アムはそう頭の中で罵倒するのだった。




