129.何としても
移動用の馬を購入しにいく前に、俺たちは全員でギルド支部に向かう事にした。
宿を発つ前に、昨晩の出来事をミコトとアムの二人にも報告したのだが。彼女たちの反応は、あまり興味があるとは言えないものだった。
二人にとっては闇の帝王など、小物以外の何ものでもないのだろう。ましてやその手下の話ともなると、完全に興味の対象外といった感じなのかもしれない。
とはいえ考えようによっては、全く気にも留められなかったのは認められている証拠とも取れる。実際に、大した苦労もなく倒す事ができたわけだが。それを最初から分かっていたからこそ、当然くらいにしか思わなかったのではないだろうか。
朝一番という事もあり、ギルド支部内に冒険者たちの姿はあまり見られなかった。
昨晩の様子からもわかるとおり、殆んどの者たちが深夜に活動しているのだ。連中の目当てが謎の魔物なら、夜に備えて午前中くらいは身体を休める、という選択をするのも当然のことである。
人があまり居ないのは好都合だと思いつつ、俺は四人にロビーで待つよう言い一人で窓口へと向かう。
「依頼完了だ。謎の魔物の正体を掴んだうえで、そのまま討伐もしてきたぞ」
受付嬢は、差し出した蜘蛛の脚を見て困惑している様子だ。
「え……えっと……討伐まで完了という事でよろしいですかね? 因みに魔物の方は、どちらで発見されたのでしょうか?」
「この町のスラム街だ。持ち帰る部位の指定は、特に無かったはずだが。まさかこれじゃ、証拠にはならないとか言わないよな?」
「しょっ、少々お待ちいただけますか? ただいま支部長に報告しにいって参りますので!」
俺の答えを受け、血相を変えた受付嬢はそう言うなり窓口から飛び出していく。
ある程度は予想していたが、ものすごく面倒な事になってしまいそうな雰囲気だ。
時間を惜しむなら、このまま報酬を受け取らずに建物を出るという選択肢もあるが、他にもギルドに対し頼もうと思っていた事がある。
そう考え直した俺はミコトたちに対して悪いとは思いつつも、そのままここで受付嬢が戻るのを待つことにした。
「少し長くなりそうだ。悪いけど、もうしばらくここで待っていてもらえないか?」
俺は一旦、仲間のもとに戻るとミコトに対してそう断りをいれる。
「普通にそうなると思っていたけどね。今回の件はパーティーで受託してたみたいだし、もし呼ばれるようならボクたちも一緒にいくよ」
別に一人でも構わなかったが。確かにパーティーで受託している以上、もし呼ばれるような事になれば全員でくるよう言われる可能性が高い。ミコトは、その辺のところちゃんと分かっていたようだ。
しばらく一緒に待っていると、さっきの受付嬢から呼び出しがかかる。やはり思っていたとおり、全員で支部長の部屋に行かなければならないようだ。
支部長室に案内された俺たちを待っていたのは、わりと若い男だった。
部屋に入った俺たちに対してその男は挨拶もせず、いきなりやれやれといった感じで言葉をかけてくる。
「ずいぶんと派手にやってくれたようだな。今朝はそのせいで、町の警備隊や近くの住民たちの間で大騒ぎになっているぞ。ギルドにも調査依頼が入ってきたが、そういう事でいいんだよな?」
「ああ、思いのほか強力な魔物だったからな。最上級の魔法を使うしかなかったし、スマートには倒す事ができなかったんだ」
俺は、咄嗟にそう誤魔化す。
不可抗力だったと強調しなければ、最悪の場合は保証問題にもなりかねない。
それに、ただの大蜘蛛を倒したという事にでもされてしまえば、報酬の額を減らされる可能性だってある。
まぁ、完全に住人の居なくなったスラム街を破壊したところで、大した問題にはならないと思うが。
「私は、このギルド支部の支部長で、ユージンという者だ。確か君たちは、神殿の攻略者というパーティーだったかね? 代表者は君ってことで良いのかな?」
「ああ、このパーティーの代表者で、名前はカケルだ」
ようやく自己紹介を終え、話は本題へと移る。
せっかく呼び出しに応じてまで時間を取ったのだ。なんとしても、対象となっていた魔物としての討伐を認めさせなければならない。
そう決意した俺は、この一筋縄ではいかなそうな相手に対し、どう話を付けようかと悩むのだった。




