126.魔物の正体②
薄明かりとはいえ、蜘蛛であれば無数にある目が反射して分かりそうなものだが。どうやら相手は黒い靄のような物を纏うことで、光の反射を阻害しているようだった。
とはいえ、実体を捉える事ができたのだから、より狙いをつけやすくなったといえる。
いきなり殺してしまっても、それほど問題ないとは思うが。会話が成立する相手なのであれば、一応こいつの目的だけでも訊ねておくべきだろう。それに、相手の強さや人語を喋る様子から察して、俺たちが目的とする闇の帝王と何か繋がりがあるやもしれない。
そう考えた俺は、この少年のような声を発する魔物に対しいくつかの質問をしてみる事にした。
「お前は何故、人の言葉を喋る事ができるんだ? ひょっとして、闇の帝王アフカルっていう奴の手下か何かなのか?」
「これから僕の餌になる奴らに、話したって仕方がないと思うけどね。そこまで知っているなら、冥土の土産に教えてあげるよ。僕は、アフカル様の眷属で名前はグレゴリーっていうんだ。普段は元の姿をしているけど、ご覧のとおり魔物の姿にもなれるってわけさ」
一応、質問をしてみて正解だったようだ。有無をいわさず殺してしまわなくて良かった。
その話が本当なら、同じアフカルの眷属であるヴィラも魔物の姿になれるという事なのだろうか。
少し気になるので、こいつを倒したら後で訊ねてみることにしよう。
「ほう。それじゃ昼間のうちは、人に紛れて生活してるって感じなんだろうな。冥土の土産にっていうなら、もう少し話を聞かせてもらっても良いか?」
「僕は今とっても腹ペコなんだ。悪いけど、これ以上話を続けるつもりはないよ!」
グレゴリーと自ら名乗った魔物は、そう言うなり再び攻撃を再開する。といっても、先程と同じような単調極まりない攻撃だ。
相手の正体が判明してしまえばなんて事はない。
感覚を研ぎ澄ませば感じる事ができる。雨のように降り注ぐ攻撃は、糸を槍のように硬化したものだった。
全方向から狙っているように感じた理由は、至る所に張り巡らされた蜘蛛の糸が、センサーの役割を果たしていたという事のようだ。
俺は、頭上から降り注ぐ連続攻撃を難なく躱していく。アイシャは半分以上、黙視に頼っているせいか少し必死な様子だ。
なかなか手こずらせてくれたが。糸のセンサーによってこちらの殺意も感じているのだとしたら、逆に相手が避けようとする先を読めば良いだけの話。
勝利を確信した俺は、攻撃を躱しつつ対象をしっかりと目で捉える。
恐らくは予備動作なのだろう。こちらの殺意を感じたのか、グレゴリーの攻撃は僅かばかり激しさを失ったように感じた。
その隙を逃さず、俺は黒い影に向かって連続で弾丸を打ち込む。脚の僅かな動きから、逃げる先を読んでの銃撃だ。
最初の三発は外れるも、四発目と五発目が直撃する。辺りには、魔物の物と思われる金切り声が響いた。
「俺たちの事を食らうつもりでいたようだが、残念だったな。こちらの方が、完全に上手だったようだ」
俺はそう言いながら、屋根の上から落ちてきたグレゴリーの方にゆっくりと近づいていく。
暗がりのため色こそわからないが、大量の体液を吹き出している様子からも瀕死の状態である事が窺えた。
しかし、俺があと数メートルという所まで迫ると、先程まで激しく吹き出ていた体液の勢いは止まった。
「事切れたか?」
もう少し話を聞ければとも思ったが、死んでしまったのなら仕方がない。そう完全に終わったと確信したその時だった。
「さっきの言葉、そっくりそのままお返しするよ」
そう言いながら、ムクッと起きあがる全裸となった血塗れの少年。黒い靄も消え、その姿はハッキリと視認できるようになっていた。




