124.町を覆う邪悪な気配
範囲を広げれば広げるほど、今のレベルではより落ち着いた状態でなければスキルを使用する事ができない。
近くのものであれば、動きながらでも察知できるが。街の外まで広げるとなると、さすがに瞑想するくらいしないと無理だ。
一旦、気配感知を止めた俺は、深く瞑想し意識を周囲に広げていく。余計な気配を拾わないよう、最初から遠くの方に意識を飛ばす感じだ。
街の中の気配をスルーする理由は、今のスキルレベルでは処理が追い付かないからである。要するに、脳がオーバーヒートしてしまうのだ。単純に頭のできが悪いってだけの話かもしれないが、そんな事はどうでもいい。今は目的の魔物を探すために最善を尽くすまでだ。
一度に数万人分の気配を察知できるようになっただけでも自分で自分を褒めたい。
最初から町の外れの方に意識を飛ばした俺は、そこから広範囲に渡って気配を探りはじめる。
町全体に邪な気配が漂っているのを感じるが、どういうわけかその出所までは察知する事ができない。
一つ気になるものが有るとしたら、全く人の気配を感じない場所があるという事くらいか。
「あっちの方向だな。ここからだと、町の西側の区域か。その辺りに、人の気配が全くない場所がある」
「町の西側の外れには、確かスラム街があるって宿の女将に聞いたにゃ。カケルが怪しいと感じるにゃら、そこに行ってみるにゃか?」
スラム街に人が全く居ないというのは確かに怪しい。元から底辺層が居ない裕福な町だというのなら、そもそもそんな場所じたい存在しないはずだ。
件の魔物がそこに潜伏していて、全員がそいつに食われた。そう考えるのが一番しっくりくる答えだ。
「行ってみるか……少し眠いだろうが、アイシャも付き合ってくれるか?」
「勿論あたいも行くにゃよ! このまま魔物狩りデートと洒落込むにゃ!」
そう言われると、なんだかMMORPGでもやっているかのような気分になる。元の世界にいたら現実では絶対に体験できないことだな。
おっといけない。これはまさしく現実なのだから、浮かれている場合ではないな。どんな奴が待ち構えているのか分からない以上、油断は禁物だ。
可愛い獣人の女の子を連れての狩りに、ウキウキ気分となる俺だったが。今回は少しだけ嫌な予感もする。謎の魔物と銘打っているだけあって、相変わらずぼんやりとした感覚しか伝わってこなかった。
俺は、気配感知の能力を解くと、アイシャと共に町の西へと向かって歩き始める。スラム街に近づいたら再び発動するつもりだ。
周りを彷徨く冒険者たちは、行方不明事件に関連付けているのか誰も住宅街から出る様子はない。
因みにその事件の特徴としては、家で寝ていたはずの人間が深夜のうちに忽然と姿を消してしまうということだ。
そんな不思議な事が、主に住宅街の中で起きているのだ。
「もっと夜も深まってくれば、こっちに移動してくるんだろうけどな。明日も早いし、悠長に待ってなどいられない」
「そうにゃね。大勢いると、せっかくアタイらが見つけたとしても横取りされる可能性があるにゃしね」
アイシャの言うことは尤もである。
謎の魔物と言われているだけに、現在も詳しい特徴すら判明していないような奴だ。今日だけ特別、捜索する人間が多いというわけでもなかろうし、普段からこれだけの事をしていてもそんな体たらくなのだ。
近づいてくれさえすれば、俺は気配感知で見つける事ができる。しかし、戦闘になれば彼女の言うとおり横やりが入るのも確かだ。
スラム街とされている場所に近づいてきたところで、俺は再び立ち止まると気配感知をその方向に広げる。
ぼんやりとしていた魔物の気配だったが、今度はさっきよりも鮮明に感じる事ができた。
町全体を覆う邪悪な気は、やはりその場所が出所のようだ。
「相手も、気配感知のようなスキルを使ってたみたいだな。そのせいで、町全体を覆っているような感じがしたんだ」
「それが確かにゃら、相手にもこちらの接近を気づかれてるという事にゃか?」
お馬鹿に見えて、さっきからなかなかに鋭い指摘をする奴だ。
アイシャの言うとおり、恐らく敵はこちらの存在を既に察知しているだろう。
「お前の言うとおりだなアイシャ。油断して不意を突かれたりするなよ」
俺は、彼女にそう言いながら再び歩き始める。気配感知のスキルは、より範囲を絞った状態で発動しなおした。
街並みは、次第にみすぼらしい感じとなっていく。
先程まで同じ場所に留まっていた魔物の気配は、俺たちを出迎えるかのようにこちらに向かって動きはじめた。




