121.倒せない理由
俺たちパーティーが泊まる宿に向かう途中、ヴィラはずっと嬉しそうに歩いていた。しかし、ミコトの事を思うと、俺の方は気が気ではなかった。
ヴィラも、尋常じゃない強さなのは何となくわかるが。神の眷属と知らず引き合わされた彼女が、なんだか可哀想にすら思えてくる。
「流石にいきなり殺すとかないよな……」
思わず俺は、そう言ちてしまう。
「何かおっしゃいましたか?」
「いや、何でもない……」
ミコトが感情に任せて凶行に及ぶような性格なら、アイシャはとっくの昔に殺されてしまっているはず。そう考えると威圧くらいはされるかもしれないが、さすがに殺されるような事にだけはなるまい。
「そういえばヴィラ。俺は気づかなかったが、ギルド支部の建物の中にずっと居たんだよな?」
「ええ、旦那様」
「じゃあ、俺の仲間たちの事も見ていたのか?」
「ええ、美しい黒髪の女性と猫の獣人女性、それと背中に小さな翼の生えた女の子も一緒でしたわね?」
唐突にそう質問した俺に対して、ヴィラは怪訝な顔をしながら答えた。
「言ってなかったが、俺の仲間にはヤバいのが二人いる」
「ヤバい、と言いますと?」
「信じないかもしれないが。古代神アシェスの眷属と、中身はハーウェの天使で体は作り物の人造人間だ」
そんな話、やはり俄には信じられないのか。ヴィラは不思議そうに首を傾げる。
「そのような恐ろしい気配など全く感じませんでしたが。獣人の女の子は、かなりの実力者のようでしたわね」
ミコトとアムの二人は、完全に能力を隠蔽する事ができる。そうなると、やはりヴィラ程の実力者であっても、その気配すら察知する事ができないという事なのか。
最初から知っているからこそ分かるが。実際に俺の気配感知でも、完全に隠蔽しているときの彼女たちの力を察知する事はできない。
今は全く気づけていない様子から察して、ヴィラが浮かれていられるのも彼女たちに会うまでだ。
と言うか、俺の力については感じる事ができていたのだから、俺の隠蔽スキルもまだまだだな。
「まぁ、会ってみればわかるさ」
今から脅しても仕方がないので、俺はそれだけ言ってここで詳しい説明をすることは控える。
目的地の宿には、それから五分ほど歩いて到着した。
先にヴィラを自分の部屋に案内した後、各部屋をノックしてドア越しに俺の部屋に集まるよう全員に伝える。
飲みにいくくらいしか娯楽のない村なので、誰も外に出掛けている者はいなかった。
「紹介したい人って、その女の事かい? 君ってやつは、どうしていつも女ばかり引っ張ってくるのかな?」
最後に俺の部屋に入ってきたミコトが、予想どおり不機嫌な顔でそう言い放つ。
「いつもってなんだよ。俺が連れてきた人間は、この女が初めてのはずだが?」
一応そう反論してみせるも、ミコトはそっぽを向いたままその理由を答えようとしない。俺は、大した意味もないのだろうと勝手に思い、すぐにヴィラを連れてきた経緯について説明をはじめた。
話の詳細は、自己紹介を終えたヴィラ本人の口から語られる。
聞き終えたミコトの反応は、予想していたとおり思わしいものではなかった。
「闇の帝王なんて、召喚者にでも任せておけば良いんだよ」
「旦那様にもお話しましたけど、召喚者ではアフカルを殺す事はできないのです」
ヴィラの言葉に、ミコトとアイシャの二人がピクリと反応する。
「殺せないって言うより、殺させない、が正解なんだけどね」
アムは、特に反応しなかったが不意に重要な事を口走った。
「それはどういう事でしょう?『それってどういう事なんだ?』」
俺とヴィラの問いが被る。
思っていたとおり、召喚者に取り憑いている天使だけに、どうやらアムはその辺の事情を知っているようだ。
「あっ、口が滑っちゃたわ。今のは聞かなかった事にしてくれる?」
すぐに誤魔化そうとするアムの反応に、俺はハーウェ神の闇深さを感じる。
まぁ、何となくその理由について察しはつくが。兎に角さっきの言葉が確かなら、少なくとも召喚者ではアフカルを殺せないというわけでもないのだろう。
「今さら誤魔化す必要もないとは思うけどね。毎度の事だけど、とんだ茶番だと思って見ていたよ」
そんなミコトの言葉で俺は確信する。神と闇側の者が、繋がっているとまでは言わないが。差し詰めそういった存在が現れる度、信仰心を保つために利用しているといったところではなかろうか。
「まぁ、俺も今ので何となく察しはついたが。俺の気持ちとしては、倒せない事もないって言うなら倒しにいってやりたいと思ってる」
あくまでも反対するようなら諦めるつもりだったが、意外にもミコトは渋々といった感じでそれを了承する。
「まぁ、それほど急ぐ旅でもないからね。ハーウェに一泡ふかせてやるのも、面白いかもしれないよ」
話が上手く纏まり、ヴィラはホッと胸をなでおろした様子だ。
「わたしもう、天界には帰れそうもないわね。このままだと、本当に堕天使って事になっちゃうかも……」
やはりこの状況が、よほど都合の悪い事なのか。最後にアムは、口元を引き攣らせながらそう呟いた。




