119.血を頂いても?
個人的に助けになってやるのは良いが、ミコトはどういった反応を示すだろうか。もし反対されるようなら、俺としても彼女に対して強くは出られない以上ここで約束してやるわけにもいかない。
兎に角、ミコトたちにも話を聞いてもらってから判断しよう。そう思った俺は、すくっと椅子から立ち上がって言う。
「俺としては、助けになってやっても良いと思ってるが、今のパーティー内では俺に決定権はないんだ。悪いけど同じ話を、俺の仲間たちにも話してくれないか?」
「わかりました……」
すぐにヴィラドリアは了承するも、何故かベッドの上から動こうとしない。
「なんだ、まだ何か言いたい事でもあるのか?」
それでもまだ動こうとしない彼女は、上目遣いでこちらを見つめるばかりだ。
ネタバラシを受けた後なので、彼女が何を思っているのかくらい想像はつく。邪な感情を察知したのも、そういう事だったのだろう。
「そんな目で見られたってダメだからな」
「まだ何も申しておりませんが?」
「何でもないなら、さっさと行くぞ」
「どうしてもダメなのですか?」
一度は何でもないかのように装うヴィラドリアだったが、けっきょく最後は本性を現す。
そんな懇願するような目で見られても、さっき知ったばかりの吸血鬼に対し、吸わせてくれと言われて血を吸わせてやるほど俺も頭のおかしな人間じゃない。
「なんでさっき知ったばかりの吸血鬼に、頼まれたからって血を吸わせてやらにゃならんのだ?」
こちらとしては当然の反応だろうし、相手もこれで諦めるだろう。そう安易に考えていた俺だったが。意外と彼女もしつこく、必死に食い下がろうとするヴィラドリアはしたり顔で言う。
「では、こういうのはどうでしょう? わたくしの事を信用していただくうえでも、あなた様の眷属になるというのはいかがかしら?」
「俺の眷属になるだって? 余計に意味がわからんのだが」
そもそもアフカルという奴の眷属だというのに、改めて別の者の眷属になる事などできるのだろうか。それに、彼女が何か特別な術にかけようと企んでいる可能性だってある。しかし、何をされようと今の俺だったら抗う自信はある。何しろアムの融合を拒絶できたという実績もあるのだ。とはいえ、よくわからない術に敢えてかかってやる必要もないし、ミコトの事を考えると後々面倒なのは間違いない。
期待に満ちた眼差しを向けるヴィラドリアに対して、悩んだ末に俺は半分だけ折れてやる事にする。
「血が飲みたいのか? それだけだったら、少しくらい飲ませてやらんでもないが……眷属がどうたらっていう話については、逆に信用ならんのでちょっと考えさせてくれ」
俺も甘いな。どうやら彼女の術中に、こちらから嵌まってしまったようだ。半分だけ譲歩したつもりでいたが、俺の答えを聞いた彼女は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「え、ええ……わたくしの提案がまだ信用ならないとおっしゃるのなら、眷属にしていただくという話は追々考えていただければ結構です。それと、今この場で血を飲ませて頂けるというのであれば、これほど嬉しい事はございません」
彼女も完全にその気になってしまったようだし、一度言った事を撤回するのも男が廃る。
ベッドに腰かける彼女に向かっていった俺は、義手でない方の右腕をすっと差し出した。
「首筋ではダメなのですか?」
「それはちょっとな……」
なんだこの奇妙な会話は。変な気分になってしまうじゃないか。エリスが初めて俺の部屋を訪れたとき、隣に座らされたことを思い出してしまう。
まさか魅了にかかっているとも思えないが。尚も懇願するような表情を向けるヴィラドリアに根負けした俺は、ベッドに座る彼女の隣に腰を下ろす。
「ほれ、好きにしろ!」
「嬉しいです! それでは遠慮なく頂きますわね……」
瞳は金色に変化し、恍惚とした表情で牙を剥くヴィラドリア。
手慣れた感じで抱きついてきた彼女の吐息が、俺の耳元をくすぐる。
まるで注射でもされる時のようだ。流れるようにして口を近づけられた瞬間、首筋に鋭い痛みが走った。




