117.妖艶な美女との再会
俺に対し声をかけてきた女は、ペールブロンドの長い髪に深紅の瞳をした、妖艶な雰囲気を漂わせる極上の美女だった。
どこか見覚えのある女だとは思ったが。似たようなシチュエーションだった事で、俺はこの女がどんな人物なのかをすぐに思い出すことができた。
しかし、女が父親と組んでいるパーティーの名前については思い出せたが、人物の名前まではどうしても思い出す事ができない。
「確か、紅き月の狼……だったか?」
「ヴィラドリアですわ。わたくしのこと思い出して頂けましたでしょうか、スズカゼカケル様?」
本人から名前を聞き、ようやく俺は彼女の名を思い出す。それにしても、かなり雰囲気が変わっているはずだが。相手の方もよく一度会っただけの俺を、涼風翔だとわかったものだ。て言うかそもそもこちらが、自分の名を彼女に対し名乗っていただろうか。
「ああ、思い出したぜヴィラドリア。親父さんは一緒じゃないのか?」
「ええ。父のドラクは今、わたくしとは別行動をしておりますの」
「そうか……」
ミコトやアイシャのお陰で、最近ずいぶんと女性慣れしてきてはいたが。やはり、あまり面識の無いこんな極上の美女と会話を続けるなんて、ずっと陰キャを演じてきた俺にはかなりしんどい。
ヴィラドリアの方も、たまたま俺だと気づいたため単純に声をかけただけなのだろう。
勝手にそう思うようにした俺は「それじゃ、またな」と言って、さっさと宿に戻ろうと彼女を冷たくあしらった。
「お待ちくださいませ、スズカゼカケル様! 少しお話したい事があるのです」
残念ながら、ちゃんとした用事があって話しかけられたようだ。そう言えば初めて会ったとき、かなり切羽詰まっている事情があるとも言っていたな。
あの時は、まさかこんな事になるなんて思ってなかったから、こちらから積極的に事情を訊く態度を取りはしたが。今となってはそんな余裕もない。早くエリスと合流し、元の世界に帰る方法をみつけ、クラスメイト達を説得しにいかねばならないのだ。
「話を聞くだけなら良いが、こちらとしても前と状況はかなり変わってしまったんでな。聞いたところで、助けにはなってやれないかもしれないぞ」
「確かに、ずいぶんと様子が変わられたようですわね。でも、エリスさんの事を探しているのではなくて?」
「そっちもエリスの事を探してるのか?」
「ええ、できれば彼女の力もお借りしたいので……」
エリスを一緒に探してくれると言うのであれば、こちらとしても大歓迎だ。帰る方法をみつける件に関しては、ミコトの言うとおりゆっくりやっていけば良い。それならば、彼女を見つけ出した後ヴィラドリアの用件を手伝うのも悪い考えではない。
「まぁ、話くらい聞いてやっても良いが。ここじゃなんだから、建物の中に戻って話をするか」
「でしたら、わたくしが宿泊している宿の部屋に行くというのはどうでしょう?」
話の内容次第では、助力すると判断する事もあるかもしれない。そう考えると、ミコトたちも一緒に話を聞いた方が良さそうだ。
こんな美女と二人っきりで会話をするなんて気まずいし、場所を変えるならこちらの宿に向かうべきではないだろうか。
返事を迷う俺だったが。ヴィラドリアは、当然といった感じで俺の手を引き歩きはじめる。見た目や口調に反して、意外と強引な女のようだ。
「おい! まだ行くとは言ってないぞ」
「大丈夫です。変な事をするつもりなんてございませんから」
そんな風に言われると、逆に何かされるんじゃないかと疑ってしまう。アイシャといい、どうして俺の周りに集まってくる女どもは、こうも頭の可笑しな人間が多いのだろうか。そうは思いつつも、俺は渋々ながらヴィラドリアの提案を受け入れる事にする。
それにしても柔らかい手だ。若い女性特有の、滑らかな手である。見たところ剣士のようだが、何故か彼女の手には剣だこが有るような感触がしなかった。




