116.乱闘騒ぎ
思ったとおり俺が連中の近くに座ると、すぐさま目をつけられる事になった。
強面の如何にも柄の悪そうな男が、下卑た笑みを浮かべながら俺に対していきなり絡んでくる。
「おい、お前! ガキのくせしていい度胸してんじゃねーか」
俺が反応せず黙っていると、それに怒ったのか男の表情は変わる。
「おい、てめー! 聞いてんのかこら! 荒野の白狼で特攻隊長を張る、ベゼルク様が話しかけてやってるんだぞ。返事くらいしたらどうなんだ? それとも俺たちにビビって、声も出なくなっちまったってか?」
ベゼルクという男の発言を皮切りに、他の男たちは一斉に笑いだす。それと同時に、数人がこちらにやってきて俺の周りを取り囲んだ。
「眼帯に、片方の腕だけ鎧をつけやがって、変な野郎だなお前」
俺の横に立ったチャラそうな感じの男が、ニヤニヤしながらそんな失礼なことを言ってくる。
「お前さー。さっきまで、いい女連れてたよな? 先に宿に帰ったみたいだけど。今から俺と一緒に呼びにいって『荒野の白狼の皆さんと、これから飲みにいくぞ』って言って部屋から誘い出してくんないか?」
下卑た笑みを浮かべながら俺の肩を掴み、そう要求してくる鼠みたいな顔をした男。
コイツにとってのいい女とは、ミコトとアイシャのどちらが対象となっているのだろうか。まさか、幼女趣味とか言わないよな?
そんな馬鹿なことを考えつつも、俺は薄ら笑いをうかべながら、相手を小馬鹿にしたような態度で無理やり話題を変えてみせる。
「なぁ、あんたらエリスの事を探してるんだってな?」
意に介さずそう言ってのけた俺の態度に、男たちの表情は一瞬で凍りつく。
「てめー! フザけんのも大概にしろや!」
ぶちギレた鼠男は俺をテーブルに押し付けようと、肩に置いていた手を一旦どけそのまま頭に掴みかかろうとする。しかし、即座にその気配を感じ取った俺は、逆に男の手首を取り片手で捻りあげてやった。
「ぎゃあ!」
短い悲鳴をあげる鼠男。完全に骨が砕けたようで、だらんとした手首を押さえながら、そのまま床に踞ってしまった。
鼠男の様子に驚いたのか、一瞬だけその場の空気は固まる。しかし、すぐに乱闘騒ぎは開始される事となった。
「舐めやがってこんガキが!」
脇にいたチャラそうな男がそう叫ぶなり、俺の胸ぐらを掴み椅子から引きずり上げる。しかし、俺は即座にその手を取り小手返しで派手に投げ飛ばしてやった。
対人戦は慣れたものである。表に出ろと言う間もなく襲いかかってくる男たちを、俺は難なく次々と殴り飛ばしていく。気づけば僅かな時間で、立っているのはベゼルクという男一人になっていた。
「てっ、てめー。一体なんなんだよ!」
少しだけ、どうするかといった感じで躊躇う様子のベゼルク。しかし、自分で特攻隊長だと言っていた手前、ここで引くわけにはいかないと思い直したようだ。怒りに任せて襲ってくる事はなかったが、慎重にこちらを警戒するようにして一応戦う構えを示した。
「畜生! 舐めんなガキ!」
平然と構える俺の態度を見て、我慢の限界に達したのか。そう叫ぶなりついに動き出すベゼルク。大振りの右フックを放ってくるが、両手でそれを取った俺は脇を潜るようにして、腕をきめた状態のまま男の巨体を床に叩きつけた。
「ぐはぁっ!」
予想していなかった投げ技に、受け身を取る事ができなかったベゼルクは、衝撃で肺の空を一気に吐き出してしまったようだ。
そんな特攻隊長の頭を押さえつけながら、俺はエリスの件について質問をはじめる。
「お前確かベゼルクとか言ったな? エリスの事について、いろいろと聞かせてもらおうか?」
「ちっ、てめーも懸賞金目当てで、あの女の事を探してる口か。だったら俺たちはまだ、何も掴んじゃいねー」
男の返答を聞いて、俺は掴む指の力を強める。
「ぎゃあ! わっ、わかったから……なんでも話すから勘弁してくれ!」
追い込む手を緩めた俺は、体を起こすのを待ってから観念した様子のベゼルクに対して質問を続ける。
「それじゃ、エリスの所在についてわかった事があれば教えてくれ」
「所在については、本当にまだ何も掴めてないんだ。俺たちは、エリスと風貌がよく似た女が、一人でこの村に来ていたって話を聞いてここにきたんだよ。認識を阻害する魔術を使うって話だったから、風貌が似ているって情報だけで手当たり次第ってやつだ。その女は、一人で魔女の森に入っていったって話も聞いたな」
ベゼルクの目をみる限り、どうやら嘘は言っていないようだ。本当にそれ以上何も知らないのであれば、敢えて騒ぎを起こす必要もなかった。まぁ、何となくムカついていたから、その事については良しとしておこうか。
荒野の白狼の連中を解放した俺は、騒ぎを起こした詫びをするため呆然とする受付嬢に声をかける。
「騒ぎを起こしたりして悪かったな。壊した物は後で弁償する」
「ほっ、本当に困りますよー! 登録して早々にギルドの建物内で乱闘騒ぎを起こすなんて、こんなこと前代未聞です! とはいえ、あいつら本当にムカつく連中でしたから、ちょっとスッとしましたけどね。弁償の件は、わたしが支部長に上手く言っておくので、たぶん気にしなくても大丈夫ですよ」
俺は、受付嬢に対し礼を言ったあと、一旦宿に帰ろうと思い建物の出口に向かった。
さっき話をしていた親切な男たちが「Bランクのベゼルクを簡単にぶっ飛ばしちまうなんて、兄ちゃん本当にスゲーな。スカッとしたぜ、ありがとよ!」と声をかけてくれたが。真面な冒険者にそう言ってもらえるのはちょっと嬉しい。
とはいえ、受付嬢の言うとおり登録して早々派手にやりすぎてしまった。
「お待ちになってくださいませ、スズカゼカケル様」
建物を出たところで、後ろからそう俺を名指しで呼び止める声がかかる。
振り返ると、その人物はフードを外し俺に微笑みかける。
怪しげな雰囲気を持ったその女は、どこか見覚えのある女だった。




