114.情報収集
「それにしても、鬼殺剣のエリスがあんな事になるなんてな」
エリスという名が聞こえてきた事で、俺は記入の手が完全に止まってしまう。
確か、騎士一万人分に相当する実力と言われている、という話は本人から聞いていたが、その二つ名については聞いたことがない。
まぁ、普通に考えて自分で二つ名を言ってしまうなんて、そんな恥ずかしい事はしないか。
「ああ。おかげで最近は、荒野の白狼の連中が余計に幅を利かせるようになって、うちらの稼業も随分とやりにくくなっちまったよな」
「そうだな。ブシドーも勢いをなくしてしまってから久しいが。エリスの事件があって以来、完全に鳴りを潜めちまったしな。そのせいで連中が、更にやりたい放題になって本当に困ったもんだぜ」
二人の男たちが話すエリスという名の人物は、俺の知っているエリスと同一人物なのだろうか。そんな気もしないでもないが、今の彼女は帝国の重鎮であるはず。そう考えると、冒険者たちが話す内容と彼女の事がどうしても結びつかない。
しかし、続けて話された内容を聞いて、その考えは完全に否定される事となる。
「まさか、召喚者様の一人を半殺しにして帝国を出奔するなんて。ブシドーの名誉会長さんは一体、何を考えてそんな事をしたんだろうな」
「帝国の発表では、気が触れたとしか言ってなかったが。あの人の事だから、絶対に何か深い理由があったはずだ。とはいえ、それで今は凶悪犯のお尋ね者になっちまったわけだし、本当に馬鹿な事をしたとしか言いようがないよな」
話の内容を聞く限り、やはり俺の知っているエリスの話で間違いないようである。
以前、俺に対して「いずれ二人で帝国を出る事になる」なんて意味深長なことを言っていたが。今回の件をきっかけに、一人で帝国から去ったという事なのだろう。半殺しにされたという召喚者についても、それが誰なのかは容易に想像がつく。
俺は、隣の席に座る男たちに声をかけてみようかと悩んだが。他の三人が既に記入を終えている様子だったので、やむを得ず書くことに集中する。
「カケル、まだ書き終わらないのかい?」
「いや、これでもうOKだ。さっさと登録を済ませて、情報収集といこうか」
これまでの経歴、と書かれた部分を、学生、と適当に書いた俺は急かしてきたミコトにそう答えるとすぐに席を立つ。
隣の男たちの話を聞いて察してくれたのか。必要もないはずの情報収集という発言にも拘わらず、彼女もその件に関して特に突っ込んでくる事はなかった。
経歴の部分について受付嬢に何か言われるのではないか、とハラハラもしたが特にそんな事にはならず。そのあと順調に手続きは進み、俺たち四人は晴れてEランクの冒険者となった。
因みに俺たちのパーティー名は、神殿の攻略者である。
登録者プレートを受け取る際、俺のステータスを見て驚いた受付嬢に「あなたなら、すぐにでもDランクに上がれそうですね」なんて事を言われたが。それでも神気やスキルなどの表示はされていない状態だった。
隠蔽のスキルを使うまでもなく、冒険者プレートに表示されるものは基本能力だけのようだ。
本来なら早速、依頼を受託したいところではあるが、エリスの件がどうしても気になって仕方がない。
そんな気持ちを察してくれたのか、ミコトたちは先に宿に帰ると言い俺は一人その場に残される事になった。
酒場の方を見渡してみると、先程までは居なかった騒がしい連中が増えてはいたものの、まだ二人の冒険者たちは酒を飲みながら雑談しているようだった。
「一杯、奢らせてもらえないか?」
見知らぬ新人から声をかけられ、怪訝な顔をする冒険者の男たち。しかし、すぐにこちらの意図を勝手に察したようで、片方の男が俺の言葉に応じてくれた。
「なんだ兄ちゃん。俺たち先輩冒険者に、これからの事をいろいろ教えて欲しいってか?」
「いや、さっきあんたら二人で話をしていたみだいだが。エリスの事と、荒野の白狼って奴らの事を少し聞きたくてな」
俺が、そう要件を述べると、急にその男は相方と顔を見合せて黙り込んでしまう。取りあえず、二人分の酒を頼みに行こうとした俺だったが。男は、急に俺の手を引っ張って無理やり空いている席に着かせた。
「兄ちゃん、ひょっとしてブシドーの関係者かなんかか?」
小声でそう耳打ちする男は、チラチラと騒がしい連中の方に視線を向けている。その様子から、俺は騒がしくしている奴らが、この二人の態度に関係している事を何となく察した。
「ブシドーの事は実のところ何も知らないんだが、そいつらはエリスと深い関係がある奴らなんだろ? それと俺は、そのエリスの事を個人的に探しているんもんでな」
俺もそう小声で返答したところ、その男は少し躊躇う素振りをみせる。邪険にする様子こそないが、あまりこちらに関わりたくないといった雰囲気だけは感じられた。
「まぁ、少し教えてやるくらいならいいが。連中が居るから、あまり長くは話してやれないぜ」
見た目のわりに、思いの外お人好しなのか。結局、俺と話をする事を了承する冒険者の男。相方も特に反対する様子はなかったので、俺は席を立つと酒を注文するためカウンターの方へと向かった。




