110.裸の付き合い
温泉街というだけの事はあって、そこは集落から独立した一つの街となっていた。宿泊施設が何件も立ち並び、それらの宿は全て源泉から温泉が引かれているという話だった。
石畳の坂道に、木造の建物が立ち並ぶ様子は、どことなく日本の温泉地にも似た雰囲気である。
女神の使徒専用とされる温泉の場所は、源泉付近となっているらしい。
そこに行くには、温泉街から更に岩山を越えていく必要がある。そのため使徒の客であったとしても、利用しようとする者はそれほど多くはないようであった。
加えて、アイシャが言うには今日一日、特別に貸し切りにするという話になっているようだ。
宿の方は族長が魔道具を使い連絡してくれていたようで、既に予約がなされていたが。せっかくなので俺たち四人は、チェックインしたあと受付からタオルを受けとり、貸し切りとなっている使徒専用の温泉に歩きで向かう事にした。
途中、獣形の魔物を何匹か倒しながら、険しい山道をのぼっていく。温泉街に至る道のりでは、全く魔物と出くわす事がなかったが。そう考えると、むしろ護衛はこっちの方が必要なのではないかとさえ感じてしまう。
まぁ、女神の使徒であれば、これくらいは余裕といったところなのだろうか。
現地に着いた俺は、二ヶ所設置されていた脱衣場の一つに入る。温泉は、並んで立つ二つの脱衣場を挟んで左右に其々一つずつあるため、表示こそないが一応なんとなく男女で別れてはいるようだ。
何の疑問も持たず自然とそうしたわけだが。先に湯へと向かう俺の耳に、隣の脱衣場に入ったミコトたちの話す声が響いてきた。
「これって男女できちんと別れている感じなのかい?」
「一応、別れているような、別れていないような感じにゃ。その時の状況次第にゃね」
「ふーん、ずいぶんといい加減な感じなんだね」
「そんじゃ、わたしカケルと一緒に入るーっ!」
「あたいは最初からそのつもりだったにゃ! それにしてもミコト。アシェスの眷属だっていうわりに、体は至って普通なんにゃね?」
「失礼な! ボクの事を、一体何だと思っているんだい? まるで『化物か何かだと思ってました』とでも言いたげな感じだね?」
まさかとは思いつつも、俺はさっさとかけ湯を済ませるとすぐにその身を湯船に沈ませる。
しかし、どうやらそのまさかという事らしく。三人の話し声は、どんどんこちらに向かって近づいてきた。
「そういう事を言っているわけじゃないにゃよ。神の眷属だっていっても、至って普通の体つきにゃね? って事を言いたいのにゃ」
「へぇ……ずいぶんと、いい度胸をしているみたいじゃないか……その無駄に大きな胸ごと挽肉にして、カラスの餌にでもしてあげようか」
「いっ、今のは言葉の綾というやつにゃ! 確かに体の美しさは、胸の大きさとは全く関係ないにゃよね。ミコトの体はまるで、女神のように美しいと思うにゃ!」
そんな会話が聞こえてきた直後、三人は脱衣場の陰から普通に現れる。三人とも前すら隠すことなく、全くもって堂々とした感じだ。
完全に裸を晒してはいるものの、アイシャだけは少し恥じらう様子で顔を赤らめていた。
「三人とも、何で当たり前のようにこっちきてるんだよ……それにミコト、普通に裸になっているようだが。耐性のない人間は、見ただけで気絶するんじゃなかったのか?」
「ボクだっていつでも辺り構わずに、神気を周囲に撒き散らしてるわけじゃないよ。力を出してないときは、普通の人間と大して変わらないさ」
「それはそうと、とにかく三人ともどうしてもこっちに入るっていうなら、早くかけ湯して湯に浸かってくれないか?」
俺は、そう言うなり三人から顔をそむける。ミコトの女神然とした裸は、相変わらず破壊力抜群だが。アイシャの程よく引き締まった体つきと形の良い巨乳も、思春期の男子には刺激的すぎる。このままでは、うっかり俺の息子さんが反応してしまいそうだ。
「非モテの厨二男子には、わたし達の裸がちょっと刺激的すぎるみたいね」
既に魂の繋がりは無いはずのアムが、まるで俺の心を読んだかのように言う。
「わたし達って、まるでお前も含まれてるような言い方だな? さすがに、作り物の幼女の体に興奮するほど、そこまで俺は変態ではないが?」
「そんなこと言って、ほんとカケルちゃんてば素直じゃないんだから。本当は私のこと、抱き締めたいくらい可愛いって思ってるくせに!」
実際、アムの裸に興奮するような事はなかったが。そんな風に返されると、何だか本当にそういった感覚が開けてしまいそうで怖い。
兎に角これ以上、反応するのはやめておこう。却って見苦しいと思われてしまうだけだ。こうなった以上、恥ずかしがらずに堂々としているのが得策である。
そう思った俺は、自分の女たちと一緒に風呂に入るくらいどうって事ない、と無理やり考えようと努める。そして、この状況を素直に受け入れてしまおうと覚悟を決めた。




