109.目的は謎のまま
遺跡の入り口に転移した俺たちは、最寄りの集落に向かって歩きだす。
行きはかなり苦労したのに、帰りは何ともあっさりとしたものだ。
青いドラゴンとの戦いで思った事だが。神殿の場所まで飛んでいってしまえば、こんなにも苦労する事はなかったのではないだろうか。
「ミコトは、空を飛行できたりはしないのか?」
急にそんな質問をした俺に対し、ミコトは少し怪訝な顔を向けるが。すぐにその意図を理解してくれたようで、訊いていない部分まで含めて説明しはじめる。
「もちろん飛行するなんて簡単なことさ。それなりに疲れるから、なるべく飛んで移動する事はしないようにしているけどね。神殿の上空は大通りと同じで空間結界が展開されているから、飛んでいこうとしても永遠にループするだけだよ」
「なるほど……当然それくらいは、お試し済みってことか」
古代魔法を使っていたとはいえ、空を飛べるようになった事に少し優越感を抱いていたが。やはり神の眷属だけあって、ミコトにとってはそれくらい当たり前にできる事のようだ。
まぁ、当然そうだろうとは思っていたが。それにしたって、こうもあっさりとその事実を告げられると、実力の差を改めて思い知らされた気分になる。
「それで、例の件についてだが。そろそろ詳しく話してくれても良いんじゃないか?」
このタイミングなら、きっと聞けるに違いない。そう期待した俺はミコトに対し訊ねた。しかし、彼女の返事は相変わらず歯切れの悪いものでしかなかった。
「まぁ、それは少しずつ話していくとしようか。君の何十万年分もある記憶と一緒で、説明するにもかなり複雑な話になってしまうからね」
「いやしかし、そもそも今回この遺跡にきた理由は、俺が元いた世界の座標を知るためだって言ってたはずだよな? でも、それらしい事は結局なにもしてないし、それについての説明くらいはしてくれても良いんじゃないのか?」
「ごめん、君の記憶にヒントが有ると思っていたんだよ。特に確証が有ったわけじゃないんだ。こうなったらボク達のアジトに戻って、詳しく調べてみるしかなさそうだね」
ミコトは、そんな曖昧な事しか言わなかったが。口ぶりからして取りあえずは、この先のプランが全く無いというわけでもなさそうだ。
元の世界に帰るヒントすら全く掴めていない以上、今は彼女の考えに従うしかない。エリスや、クラスメイト達の事は少し心配だが。前にも思っていたように、何も掴めていない状態で説得にいっても相手にされないのは分かっている。
そんな感じで取りあえず納得する俺に対し、ミコトはその考えを肯定するかのように「まぁ、慌てる事はないよ」と最後に付け加えた。
遺跡から最も近い集落に到着した俺たちは、族長に挨拶を済ませた後アイシャの提案で温泉に行く事になった。
温泉はこの集落の名物らしく、他の部族の者たちも傷の回復や癒しを求め頻繁に訪れているそうだ。
しばらく風呂に入っていなかったから、慰労の意味も込めて彼女の提案には感謝したい。
温泉までは十キロ程の距離だ。途中、魔物避けの結界が切れる区間を通るため、乗り合い馬車には数名の護衛が付けられているようだった。
護衛と馬車は温泉街から出ているようで、それはちょっとしたビジネスとなっているらしい。
「こんなにたくさん向かう客がいたんじゃ、温泉もかなり混雑してそうだな」
乗り合い馬車を利用する客の多さにそう言ちる俺に対し、アイシャはすぐに反応する。
「その心配なら要らないにゃ! 女神の使徒だけが入れる温泉の入浴許可を、族長に言って特別に取ってあるにゃからね」
GJアイシャ! 抜けているようで、意外と抜け目がないじゃないか。
朝飯を作ってくれた時もそうだったが、直情的に見えて思いの外しっかり者なのかもしれない。
俺たちが族長の部屋を出た後、アイシャ一人だけ残っていたのはそういう事だったようだ。
少しアイシャの事を見直した俺は、ついうっかり彼女をじろじろと見てしまう。
「どうしたにゃ? カケル。そんにゃにじろじろと見られたりしたら恥ずかしいにゃよ。温泉、楽しみにゃか?」
「ああ、すごく楽しみだ。誘ってくれて、ありがとなアイシャ」
俺は、素直な気持ちでそう答える。
それがよほど嬉しかったのか、アイシャは顔を少し赤く染めながら満面の笑みを浮かべていた。




