107.最後の試練
外に向かうにつれ、強大な力を持った者の気配は更に強くなっていく。アイシャと共に倒した、漆黒の三つ目巨人もかなり苦戦はしたが。神殿の外に待ち受ける気配は、完全にそれを大きく凌駕するものだった。
気の種類は、ミコトに近いものがある。魔力とは違う、何か特別な存在のもののように感じられた。
「ミコト。今回は頼んでも良いか?」
全く自信が無いわけでもなかったが。またアイシャと二人だけで倒すには、少々手こずりそうな相手のようだ。
試練という事でないのであれば、さっさと片付けてガルフの待つ集落へと向かいたい。
そんな風に考えていたのだが、ミコトの答えを聞いて俺は落胆する。
「せっかく、かなりレベルアップできたんだし。ここはカケル一人で片付けてみるっていうのはどうだい?」
ミコトの答えを聞いて、一人置いてけぼりといった様子のアイシャが話に割り込む。
「さっきから、何の話をしているにゃか?」
「神殿の外に、相当ヤバい奴がいるのよ。カケルちゃんが面倒だって言うなら、わたしが代わりにやってあげても良いんだけどね」
天使だけに、やはりアムはわかっていたようだ。彼女は俺の代わりに、アイシャに対してそう簡単な説明をした。
それにしても、一人でやれとは少しスパルタ過ぎやしないだろうか。
まぁ、ミコトがそう言うのであれば、ソロでやっても俺に勝つ見込みが有るという事は確かだろう。
「まぁ良いさ。あまり気乗りはしないが。やれるだけやってみるさ」
「あっそ。ヤバそうなら、いつでも代わるから声かけてね」
実際アムが言うように、彼女たちの存在は大きい。万が一の状況に陥ったとしても、神に近い力を持つ仲間が後に控えているというのは安心感がまるで違う。
もし、一人でこの場にいたとしたら、間違いなく戦闘を回避する方向で考えていただろう。
いざとなれば仲間がなんとかしてくれる。そういった保証があるのは、これ以上ない安心感だ。
ヤバい気配を放つ者の正体は、神殿を出てすぐに明らかとなる。
階段の下にある広場の中央には、青い巨大な生物と思われるものが鎮座していた。
こちらの気配を察知したのか。その物体は、不気味な唸り声をあげながらゆっくりと翼を広げる。
この位置からでもはっきりとわかる。それはまさしく漆黒の翼を持った、青い巨大なドラゴンであった。
「色に惑わされないようにね。あいつ、ああ見えても火を吐くし、火力は普通の火竜と比べても二倍はあるよ。それじゃ、カケルのお手並み拝見といこうか」
そう軽い感じで、戦いを始めるよう促すミコト。
普通の火竜とやらが、どの程度の火力なのかはわからないが。見るからに、相当ヤバい奴だという事だけはわかる。全長は、奴の周囲から比較すると30メートルくらいは有りそうな感じだ。
「あれだけのドラゴンなら、知能も高くて話が通じるとか、そんな都合の良い話はないよな?」
「その心配なら要らないよ。ボクが初めてあいつと戦った時は、問答無用で襲いかかってきたからね。たぶん、この遺跡のエリアボス的な存在なんじゃないかな? あいつを倒せば、遺跡の入り口に繋がる転移陣が出現するから頑張って」
別に戦いたくて言ったわけではないが、そういう事なら話は早い。ミコトの言葉で、俺は俄然やる気になった。
「ああ……何処までやれるかわからないが、取りあえずここは俺に任せろ」
そう返事をするなり、俺は階段をゆっくりと下り始める。その動きを合図と受け取ったのか、青き大竜は翼を羽ばたかせ広場を飛び立った。
遥か上空からの、ブレスによる一方的な攻撃はまずい。咄嗟にそう感じた俺は、階段を一気に駆け下りながら古代魔法の詠唱をはじめる。
~マクォネザークエイオロース レカクゥーアロズー ラノタスアバット ニューラウルターウィキアット オイェックザソウアサバット~
~風の神エイオロスよ、大空を翔る翼となり我に大気を操る力を授けよ~
「飛翔!」
思い出したての古代魔法によって、空を翔る力を得た俺は大竜より先に上空へと舞い上がる。
予想外の事に驚いたのか。大竜は一瞬、空中に留まる様子を見せたが。上を取った俺に対し狙いを定めると、翼を後ろに折り畳み一直線に猛然と突っ込んできた。




