100.旅立つ二人③
結局かなり露出が多めな服二着を購入した俺たちは、次に宿の主人お勧めの武具を扱う店へとやってきていた。
江戸の街における刀屋のようなものだったが。そこには剣以外にも様々な武器が置かれており、防具なども一緒に売っているようだった。共通するところと言えば、目利きもおこなっている事くらいだろうか。
「いらっしゃい! ん? 兄さん、ずいぶんと変わった剣を下げているようだが。そいつは片刃の剣か? ちょっと見せてもらってもいいか?」
店の主は、すぐに侍の刀に興味を示したようで、こちらが要件を伝える前にそう言って俺に訊ねてくる。
武具を扱う者とはいえ、武士の魂である刀を赤の他人に軽々しく見せるのはどうかとも思ったが。異世界の人間にそれを説いたところでわからぬ理屈だと思い直し、最初に「売るつもりなどござらぬぞ」と前置きしてから腰の物を差し出す。
武具屋の主は「そんな事はわかっているさ」と言ってそれを受け取ると、鞘から取り出しまじまじと眺めはじめた。
「う~ん……これは見事な物だ……こんな美しい剣など見たことないぞ。もはや芸術の域に達していると言える代物だな」
武具屋の主が唸るのも当然だろう。元は、それほど名のある刀匠に打ってもらった物でもないが。アテュエルによって強化されたその刀は、自分でも見惚れる程の輝きを放つようになっていた。
名残惜しそうに刀を鞘に収め、何か言いたげな感じで俺にそれを返す店主。彼の表情からは、明らかに前言撤回したいという様子が窺えた。
「兄さん! こんなすごい刀を、一体何処で手に入れたんだ?」
「拙者の故郷である、日本という国でしか作られておらぬ物でござる。残念ながらこの世界……いや、この国では同じような物を手にいれるのは難しいでござろうな」
俺の話を聞いた店の主人は、何となく察していたとおり急に前言を翻して言う。
「さっきはわかっていると言ったが。やはりこの刀、俺に売る気はないか?」
「それは無理な相談にござる。刀は武士にとって魂と言われる物にござるからの」
それでも諦めの悪い店主は、更にとんでもない事を言い出す。
「そんじゃ一つ提案なんだが。俺が取引してる鍛冶屋に、そいつを見せてやってもらえないか? 勿論、礼はたんまりとするからさ!」
恐らくだが同じ物を作れないか、その鍛冶職人に訊こうという事なのだろう。それくらいは容易に察しがつく。
見せるだけならそれほど難しい事ではない。しかし、日本刀という刀は、外国の剣にはない特別な切れ味を持つとも聞く。ましてやアテュエルによって強化された代物なのだ。この世界の職人がどれだけの技を持つのかは知らんが。一度見せただけで、そう簡単に真似できるとも思えない。
そうなると刀を見た鍛冶職人が、しばらく預かりたいくらいの事は言ってきてもおかしくはなさそうだ。
「見せるだけなら構わぬが。預かるというのだけは無しで願いたい。なにぶん拙者にとって、命の次に大切な物ゆえな。では、この娘の武具を選んだ後に、その鍛冶屋とやらに一緒に参る事といたそうか」
上手くすれば、エリスの武具を安く仕入れる事ができるかもしれない。そう思った俺は、店の主人の提案を快く受け入れる。
幼い娘に見えるエリスの武具だと聞いて、僅かに訝しげな顔をする店主だったが。俺が快諾した事を、よほど嬉しく思ったのだろう。「剣の扱い方でも教えてやるのか?」とだけ訊いてきたが、その後は真剣な表情で彼女の武具を選びはじめた。
「こんなのはどうだ? 軽いし、扱いやすいと思うぞ?」
鞘の部分に美しい装飾が施された短剣を手に、そうエリスに向かって訊ねる武具屋の店主。
しかし、エリスは店主の問いに答える事なく俺に視線を向けると、まるで反応を窺うかのような顔でこちらを見つめてくる。
店主も、俺の意向が決め手となると判断したようで、短剣を鞘から取り出し「どうだ?」と言ってそれを俺に手渡してきた。
何となく物が良いのはわかるが。明らかに護身用といった感じだ。実際に魔物どもを相手にするには、もう少し刃渡りのある物の方が好ましい。
「実際に、魔物どもを相手にするのでな。もう少し実戦に向いた物をお願いしたいのだが」
そう聞いて益々、怪訝な顔をする店主。そんな中エリスは俺の裾を引っ張りながら、恐る恐るといった感じで自身の望みを言いはじめる。
「ねぇ、シンジュウロウ……わたし、シンジュウロウが持ってる剣と同じ形の物がいい」
エリスの望みを聞いた店主は、意を得たりといった感じである。それならば、ここで売っている物を選ぶよりも、先程の提案を進めた方が手っ取り早い。
そう察した俺は溜め息をつくと、店主に対して「仕入先の鍛冶屋というのは近いのか?」と訊ねる。
気の早いことに店主は「ああ。ここから歩いていっても、すぐに着く場所だ」と言うなり、すぐに店じまいの準備をはじめる。
望みが叶いそうな雰囲気となり、エリスはとても嬉しそうな顔を俺に向けていた。




