99.旅立つ二人②
鑑定士の男に、何処か良い店はないかと訊ねてみたが。私はそういった事に関しては疎いので、といった感じで困った様子の反応をしていた。そのため俺は、取りあえず前回泊まった宿に向かうことにした。
宿の女将ならその辺の事情に詳しいのではと思い、部屋を取るついでに訊いてみようと思ったのだ。
女将は、お節介すぎるほど親切な人であり、異国風の俺に対しても何かと世話を焼いてくれていた。
宿に着くと空きは十分あるようだったので、俺は部屋を二つ取ると主人に伝える。主人の方はぶっきらぼうな感じだが、根は女将と一緒で親切な男だ。
「シンジュウロウ……どうして部屋を二つ取るの? わざわざそんな事しないで、一緒の部屋でも良いじゃない」
「お前が十四だと聞いてしまっては、余計に同じ部屋というわけにはいかぬ」
「わたしまだ小さいから、誰かのお世話が必要だし一人じゃ怖くて眠れない」
俺の困った反応を見て、エリスはわざとらしくそう言ってみせる。
当然ずっと気になっていたのだろう。そんな彼女の発言を受けた宿の主人は、訝しげな顔を俺に向け訊ねてくる。
「その娘は一体どうしたんだ? ずいぶんな格好だが、そんなんじゃ流石に可哀想すぎるだろ」
勝手に何かを察した感じで問われた俺は、これ以上勘違いされまいと思いすぐに事情を説明する。
俺の話を聞いた主人は、すぐに女将を呼んでくれた。
買い物しにいくとしてもその格好じゃ可哀想だと言われ、エリスは女将によって何処かに連れていかれてしまう。
俺は、そのまま主人と雑談でもしながら、受付の場所で彼女を待つ事にした。
「まぁ、あいつに任せておけば大丈夫だ」
主人の言ったとおり、女将に連れられ戻ってきたエリスは、ずいぶんと小綺麗になっていた。
体を洗ってもらったのか。髪は綺麗に整えられ、心なしか良い匂いも漂わせている。
着替えの方は女将の物と思われる服を、裾の部分を捲った状態で着させられていた。
「あのボロボロになっていた服よりかはマシだろ?」
マシなんてもんじゃない。ずいぶんと見違えるほどだ。これなら服屋の店主に侮られ、相手にされないという事もなかろう。
「エリスよ、ずいぶんと見違えたな! 女将、何と礼を申してよいか……」
感謝の気持ちを表そうと思った俺は、そう言いつつ懐の銭袋に手をやったが。すぐに察したのか、女将は「礼なんか要らないよ! どうせもう着られなくなっていた服だからね」と言ってそれを固辞する。
「そういうわけには参らぬ」
俺はそう言って、あくまでも礼をしようと思ったが。女将は「礼をしてくれる気があるんなら、この店を贔屓にしてくれるだけでいいよ」とまで言ってくれたので、まだ袋を出していなかった事もありその厚意に甘えようと考え直した。
「かたじけない。では、そのご厚意に甘える事にいたす」
そう宿の夫婦に礼を言った後、俺はエリスを連れ街へと繰り出す。
思ったとおり女将は、その辺の事情にとても詳しく。服を売っている店の場所は、彼女から訊くことができた。
少し躊躇うエリスの手を引き、俺は店の中に入る。女将が教えてくれた店だけあって、そこの店主も明らかに普通の感じでない俺たちに、嫌な顔一つ向ける様子はなかった。
「この娘に合いそうな旅に向いた服を二三着、適当に見繕ってくれぬか?」
この世界においては特にそうだが。女物の服などわからない俺は、店主の美的感覚と本人の好みに任せる事にした。
最初は勧められても戸惑う様子のエリスだったが、段々と楽しそうになり自ら服を選びはじめる。
「どう? シンジュウロウ。わたしに似合ってるかな?」
一着目を試したエリスが、恥ずかしそうに試着した姿を見せ俺に訊ねてくる。
「ああ……とても良く似合うておる」
俺は、よくわからなかったが取りあえずそう褒めてみせる。
それにしても、この世界において旅に向いた格好とは斯も布の少なきことか。
俺は、エリスのへそを出した格好に、冒険者ギルドで受付をしていた娘の姿を思い出す。そして、多少の疑問は感じつつも、文化の違いなのだと勝手に納得するのだった。




