二十七
カナリアの所に行く前……二人と話したほんの少しの時を思い出した
あの時に感じた不思議な気持ち、感覚……あの時はよく分からなかった。今ならちゃんと分かる、理解出来る
エネミデアは僕に教えてくれていたんだ。命の尊さを
エネミデアのお腹を通して僕の掌に伝った……凄く弱々しくて、凄く元気で……凄くか細くて、凄く力強い命。エネミデアが、ホロコストが……僕が護ろうとしたもの
命を粗末にしちゃいけない。あんなに…あんなに産まれる事を、望まれて産まれた命を一方的に奪うなんて事……自分が楽しむ為だけに創るなんて事、絶対にやっちゃ駄目だったんだ
上半身を起き上がらせて二人を見る。僕を見る二人の顔は……同じ表情を浮かべていた
「…………ごめんなさい。僕間違ってた、やっちゃ駄目な事をやってた。ごめんなさい」
謝っても、きっと二人は許してはくれない。それだけの事を僕はやった
だけど、ちゃんと謝りたかった。ちゃんと二人に……エネミデアに、ホロコストに、カナリアに……命を創る為に犠牲にしてしまった全てに
「分かれば良い。物事の善悪を正しく理解出来たのなら、私は君を責める事はしない」
…そう言って、シノノメが僕の頭を優しく撫でた
大きな手。なのに優しくて……少しだけ、ホロコストが重なって見えた
「……さて、零也君達の元へ急がねば……と言いたいが……私もシノノメもこんな状態になってしまっては却って彼等の足を引っ張ってしまうな」
「……お前も私もお互い全て魔力を使ってしまったからな」
「……ねえ、此処にはシノノメとヴェルファウドの他にも来てるの?」
「……ああ。世界の崩壊を防ぐ為に……困っている人や悲しむ人を出さない為に魔皇の元へ向かっているよ。君が護ってくれたエネミデアとホロコストの子…ジェーノ君も共に」
「……!!」
ヴェルファウドの言葉に思わず立ち上がった
…駄目だ。向かっちゃいけない、あの人と闘ったら駄目だ
あの人は強い、それも物凄く。闘ったら間違い無く殺されちゃう
あの人は今までの僕と一緒だ。命を奪う事に何の躊躇いも無い、早く止めないと
地面を踏み締めて走り出そうとした。その僕の足はしっかりと地面を蹴ってくれなかった
数歩走った所でふらふらと身体を蹌踉けさせて…態勢を整えられずに地面に転がってしまった
何…これ…?身体が……思うように動かない…?
「君も魔力を使い果たしたんだろう、その状態ではそうなるのも当然だ。大丈夫か?」
シノノメが地面に俯せる僕に近付いて屈みながら訊いて来た
…そう、なんだ……魔力を使い果たすとこんな風になっちゃうんだ。初めての経験だ、身体が動かない、立っていられない、全身に力が入らない
……でも……それでもっ…!
「行かなくちゃ…!護ら……なくちゃ…!エネミデアとホロコストの赤ちゃんをっ…!」
立ち上がる。走る。蹌踉ける。転がる。同じ事を繰り返してしまう
地面を転がる度に地面に僕の血が付いて汚れる。乾き切っていないからなのか、随分べったり付いてしまった




