四
…ヴェルファウドの様子が変わった。虚を見据える瞳が鋭く強い…私がよく目にしていた瞳に
虚の取った行動がヴェルファウドの逆鱗に触れてしまったようだ、まだ自分を律してはいるようだが…この様子ではそれもいつまで持つか分からない
「!」
…ヴェルファウドは虚へ接近し、その拳を振るう。その疾さは比喩無く〝一瞬〟という言葉が相応しいのだろう
そして虚の脇腹辺りへ振るわれたその拳の強さ…これも私がよく見知っていたものだった。荒々しく、憚る者全てを屠らんとする…昔のヴェルファウドそのものだ
虚はその拳に反応出来なかった。拳だけでは無く今のヴェルファウドの疾さにすら
凄まじい勢いで壁に叩き付けられ…上半身だけ起き上がらせる虚の目が大きく数度瞬かれる。信じられない物を見たとその顔が物語っていた
ゆっくりと歩み…ヴェルファウドは虚を見下す
「立ちなさい」
「…やっと本気になってくれたんだ」
「ああ。もうあれこれ考えるのは止めよう。その方が私には合っているようだ」
虚の腕を掴み、無理矢理立ち上がらせるのかと思いきや…ヴェルファウドはそのまま虚を放り投げた。放り投げる…では無い、逆側の壁へと叩き付けた
轟音と共に虚は壁に衝突し、その壁は無惨に破壊され土煙を上げる……途轍も無い力だ、先も今も虚が魔法壁を展開していなければ間違い無く殺してしまっている
「ヴェルファウド!!やり過ぎだ!!」
「いいや、やり過ぎでは無いよ。まだ魔法壁は砕けていない」
土煙の所為で虚の状態が分からないにも構わずヴェルファウドはその足を進め……鋭利な魔法の刃が土煙を掻き消すように飛び出し、ヴェルファウドへと襲い掛かる
…それを片手で払い除け、更に歩を進める。怒りに任せ防御が疎かになっていないか心配では有ったが…どうやらその心配はせずとも良さそうだ
それならば…今心配なのはヴェルファウドでは無い、虚の方だ
「凄いね。竜王サマこんなに強かったんだ」
「少しは自分の身を案じたらどうだい」
また同じ光景が繰り返される。ヴェルファウドに殴られ吹き飛び…一方的に遣られてしまっている
そして…殴られる度、吹き飛ばされ壁に激突する度に虚を覆う魔法壁は罅割れて行く。圧倒的な力の前に形状を維持出来ず、ぱらぱらと地面に欠け落ち消滅する魔法の粒子が多くなっている
あれではもうヴェルファウドの攻撃を受けられない…!止めなければ!
「ヴェルファウド!!止めろっ!!!」
…叫び止めようとした私の声はヴェルファウドには届かなかった
魔法壁はヴェルファウドの拳に耐えられずばらばらと砕け、拳はそのまま虚の腹部を捉えた




