二
ゆるりと虚の身体が揺れる。私と目を合わせーーー…瞬きをした時虚は既に目の前へと迫っていた
掌を開き、腕を絞って振り下ろして来る。半身を返してそれを回避するが…空振った虚の掌からは灰色をした魔法の斬撃が飛び交っていた
目標を外した斬撃は壁に深くその跡を残す。まともに食らえば身体の両断は容易かったろう
「うん、動きは悪くないね」
「随分と余裕が有るようだね、私達を前にして動きを試すとは」
「だって昨日は竜王サマの動きが悪くて全然楽しめなかったんだもん」
「それはすまなかったね!」
今度は此方から虚に仕掛ける。無防備に立つ虚へと迫り蹴りを放つ
それを虚は抵抗無く受け入れた。無防備なまま一切回避を取らずに
……違う、抵抗無くではない
私の蹴りは虚の身体に当たっていなかった。その僅か手前で止まっている……これは…!
「魔法壁か…!」
「竜王サマが街を覆ってたこれの事?ふぅん、そういう名前なんだ」
「……今まではそれを使う事はしなかったが、隠していたのかい?」
「ううん、僕にも使えそうだから使ってみただけ。隠してないよ」
…嘘は言っていない。虚を覆う魔法の膜…今までは無自覚に展開していたものを意識的に展開させたのだろう、魔法に対してでは無く物理に対し効果が有るように
……俄かには信じられないが、私が覆っていた魔法の構築を見て覚えたのだろう。たった一度見ただけで
それだけでは無い、無詠唱でこれだけ強固な魔法壁を展開出来る…これが虚の魔力の〝質〟なのだろう
刃のように、盾のように…鋭く、硬く、柔く、脆く…自分の思うままに形を変える
「また何か考えてる」
「!」
睨むように目を細め、虚は波状の魔法を私へ放って来る。今度は広範囲を一度に攻撃し回避させないつもりか
シノノメが私の前に立ち、その波状の魔法を大剣で斬り裂き無効化する。小さく息を吐いて振り抜いた大剣を構え直し、虚を見据え…
「ヴェルファウド!手伝え!」
「ああ!」
二人同時に虚へと攻撃を掛ける。左方、右方に分かれシノノメは大剣を、私は爪を立たせ虚へと切り掛かった
私達二人の攻撃を虚は後方へ飛び退き回避を取る。回避をしながらも私達へ手を翳し…今度は鞭のようにしなる魔法が大量に私達へと襲い掛かって来る
それ等全てを薙ぎ払い、斬り払い消滅させる。それを見た虚は満足気に私達を見ている…ように見える。相変わらずその顔に変化は見られないが
「…これも駄目かぁ」
「拘束して動けないように、と考えたのかい」
「うん、でも駄目だった。次はどうしようかな、どうしたら竜王サマとおじさんを崩せるかな」
「…虚。今君は何を感じている?」
シノノメの問いに虚は小さく目を開いた。もう虚はこの感情を識っているのだろう、それに対しての返答は直ぐに返って来た
「〝楽しい〟って感じてる。僕のここ…ここがね、弾んでるのが分かるんだ」
そう言って虚は胸に手を当てて見せた。その表情は柔らかく…虚は笑っていた。先といい今といい…虚は変わって来ている。感情を識って来ている
口元に笑みを浮かべながら私達を見て両手を広げている。その両掌に魔力が凝縮されていくのが見て取れる
…より感じたい、識りたい…か。全く……初めて魔法を見た幼い頃の八雲を見ているかのようだ




