9日目 15時から16時 帰還
城に戻った俺たちを出迎えたのは盛大なパレードだった。国民のすべてが王都に集まっているのかと思うほど通りを埋め尽くす人、人、人。
情報だけは先に王都に送られ、魔王討伐の確認が行われている間に俺たちは馬車で城に戻ってきた。転移結晶を利用すればエリノスと二人すぐにでも戻れたのだが、魔王討伐が俺一人の手によるものでないことくらい理解している。だからこうしてゆっくりと戻ってきたというわけだ。
とはいえ、一日も早く日本に帰りたい俺の希望を叶えるために、今まさに送還術の準備が行われている。
「本当に帰ってしまわれるのですね」
「当たり前だろ」
俺のそっけない返答にエリノスが顔をわずかに曇らせる。一週間程度の付き合いとはいえ、四六時中共に過ごし、戦ったわけで俺としても彼女たちに対して情がないわけではない。ただ、それ以上に家族への思いが強いだけである。
「そうですよね。愛する奥様が待ってらっしゃいますものね。本当にアキラ様には感謝してもしきれません」
感謝の言葉は一生分くらい聞かされたような気がする。すぐに帰るといっても王城での宴には出席したので王様をはじめとした国の重鎮から、果ては給仕や掃除人にまで一人ひとり礼を言われてしまった。
「だけど、まだ終わりじゃないだろ」
「ですがアキラ様がいなければ魔王は討伐できませんでしたから」
魔王は討伐したものの魔王軍が壊滅したわけではない。俺が倒した四天王はルセオンと黒騎士の二人。強敵はまだ残っているのだ。だが、ルセオンは不意打ちゆえに苦労した部分もあるが、セシルのスキルが通じたように、人族が全力で挑んで倒せない敵ではないという話だ。
「この国が真に平和になることを祈ってる」
「ありがとうございます」
「勇者様に元気なお子様が生まれることを願っています」
「ああ、セシルもありがとうな。結局、魔王戦にまで巻き込んでしまったな」
「あの状況はしょうがないですよ。それにミーシャのことで感謝しかありませんし」
「彼女も回復しそうなんだよな」
「ええ、おかげさまで」
実験的治療は今のところ上手くいっているらしい。
まだ、完治したというわけでもないのに俺がこうして帰ろうとしているのは、魔王戦の最中『真なる勇者』に目覚めた瞬間、呪は解除されていたらしいのだ。
これから日本に戻るわけだが俺として準備は特にない。
魔王討伐の報酬として貴金属はもらったので、あとは送還術の準備が整うまでこうしてエリノスやセシルと話をしているだけである。なんだかんだで共に戦ったイーナに挨拶をしたいところだったが、彼女とは帰りの馬車以降顔を見ることはなかった。
何でも勇者とは二度と関わりたくないそうだ。
なぜだろうか?
「勇者様、準備が整いました」
「そうか」
地面に描かれた漫画やゲームにあるような魔法陣。俺は誘導されるまま指示された場所に立った。魔法陣の中央には魔王から転がり出た漆黒の魔石が置かれている。六芒星が描かれ、その頂点の先には宮廷魔導士が一人ずつ座禅を組んで呪文の詠唱を始めている。
「アキラ様……」
エリノスとセシルは魔法陣の外で様子をうかがっている。その向こう、この部屋の入り口にイーナの姿がちらりと見えた。目が合うと姿を隠してしまったが。
すでに姿は見えないが彼女に目礼をして感謝を表す。彼女に助けられた部分も多いと思う。もう時間はないのだから、ちゃんと挨拶できなかったのは残念だ。
「本当に、本当にありがとうございました。我が国の民に限らず世界中の人々がアキラ様に心より感謝しております。我々の勝手な都合で家族から引き裂くなど許されざることをしたことを心よりお詫び申し上げます。アキラ様――」
「そんなに気にするなよ。何とかうまくいったんだ。それにこうしてちゃんと約束守って俺を返してくれるんだろ。だったらそれでいいじゃないか」
「ですが……」
「じゃあな、元気で」
「勇者様も」
「ああ」
セシルがエリノスの肩を優しく手を乗せる。その手を手を合わせながらエリノスの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
俺の足元の魔法陣から眩いばかりの光があふれてくる。
音が消え、世界が白に埋め尽くされた。




