6日目 0時から1時 魔王襲来(5)
「はっ!!」
全方位から飛来する無数の矢に対して、気合を入れるような声を出すと魔王を中心とした衝撃波のようなものが広がった。実体のない矢は一瞬にして霧散する。
攻撃は無駄に終わったかに見えるが、セシルの攻撃を皮切りに次から次に各々の全力の一撃が魔王を襲う。斬撃が縦横無尽に飛び交い、槍が音速を超えて魔王に迫る。
だが、それらが魔王を気付つけることはなかった。
右に左に体を捻り、時に払いのけながらも魔王の顔から余裕が消えることはない。下手な鉄砲も数討ちゃ当たるといっても、格が違えばどれだけ手数を増やしても意味がないのかと思った時、紫電が魔王を貫いた。
前後左右の攻撃を難なく捌いていた魔王の頭上からそれは落ちてきた。いつの間に発生したのか上空には積乱雲が局所的に発生していた。そこに向かって指を向けているのは天才魔導士であるイーナだ。
プスプスと体から煙を上げる魔王がカッと目を見開いた瞬間、紫電が再び魔王を直撃する。魔王が普通の生き物と同じなら神経を電気が走ることで体は動くはずだ。そこに高電圧が掛かれば、どうしたって動きはマヒしてしまう。
「なめるな!!」
二度の雷撃を受けても死なないのか、魔王は消えるような速度でイーナの眼前に迫る。腕を振り上げた瞬間、三度目の雷撃が魔王を貫いた。
雷撃がどの程度魔王にダメージを与えているのかわからない。
だが、二度の雷撃を目にしてイーナの魔法の発動のタイミングをつかんだ俺は三発目の魔法にタイミングを合わせた。
「くたばれ」
掌の先に収束させた超高温の炎をビームのようにして魔王に向かって放った。視覚の外からの攻撃に魔王は雷撃を受けていながら首を傾げて躱そうと動いた。思考加速している俺は視界から入ってくる情報を分析し、魔王が動いている方に向かって軌道を合わせた。
魔王の頭の中心を狙った紅蓮のラインはわずかにずれる。
それでも側頭部に空いた穴は、右目から抜けていた。
魔王が振り返りながらイーナを吹き飛ばした。
一撃で意識を失ったらしい彼女は、人形のように地面を数度跳ねながら数十メートルも転がっていった。
怒りに彩られた形相と周囲を威圧する圧倒的な覇気に、兵たちはそれだけで膝を落としていった。耐えていたのは高レベルの者たちだけ。
頭に空いた穴からすれば脳にもダメージを与えたはずだというのに魔王は健在だった。それどころか見る見るうちに右目が元に戻っていく。
「化け物め……」
勝てないのか。
魔王を前にして数度脳裏をよぎった考えが再度ぶり返す。この場にいる全員の全力をもって与えた傷すら短時間で回復してしまう化け物じみた力を見せられて心を折られずにはいられなかった。




