6日目 0時から1時 魔王襲来(1)
ちょうど日付を変わるころ、夜空を見上げていた俺たちの馬車に向かって何かが飛来してきた。それが何か気付くよりも先に、護衛の一人が上空に向かって魔法を放った。
何かにぶつかり爆音を響かせて、閃光が広がり闇が払われた先には蝙蝠のような羽を広げた男が浮かんでいた。
魔法の攻撃など無かったかのように悠然としている男と目が合った。その瞬間、誰なのかわかった。
「魔王か」
俺のつぶやきなど到底聞こえるはずもないのに、魔王の口が弧を描いたのがわかった。魔王は頭を下に向けるとミサイルのように突っ込んできた。
手元にある剣を鞘から抜き放ち、問答無用で最高の一撃を叩きこむ。
ギンッ!!
斬撃に合わせて魔王の腕が振るわれ、鋭い爪が剣を真っ二つに切り裂いた。失われた刃先が回転しながら勢いよく背後の馬車の壁に突き刺さった。
「ルセオンだけでなくディルグまで戻らなかったのは偶然ではないらしいな」
剣は止められたが、一緒に打ち出していた水刃がほんのわずかに魔王の腹部を切り裂いていた。血は見えないものの着ている服が切れていた。
「アキラ様」「アキラさん」
エリノスとセシルが戦場に顔を出した。これだけの音を響かせていれば当然だが、護衛の者たちもみな目を覚まし魔王に向けて各々の武器を向けていた。
「魔王っていうのは城でふんぞり返っているのが相場じゃないのか」
馬車から降りると、折れた剣を捨てて拳を握って魔王と対峙する。不思議なことに最近相手をしてきた連中と比べると魔王の持つ気配が随分と薄い。
「勇者だけは我に届きうるからな。であれば、成長する前に叩くのは道理だろう」
「当たり前っちゃ当たり前だけどな」
そんなことされたら勇者が魔王を退治するなんて物語は成立しないだろう。普通は魔王の幹部に召喚されて1日2日で襲われるなんて話はない。ましてや魔王自ら勇者を殺しに来るなんて物語があってたまるか。
勇者は仲間を集めながらレベルを上げて、敵の本拠地に乗り込む。
それがセオリーじゃないのかよ。
だが、相手からのこのこ来てくれたんだ。歓迎しようじゃないか。
「お前が魔王で間違いないんだな」
「それがどうした?」
「いや、なに。貴様を殺せば元の世界に帰れるらしいからな。悪いがここで死んでくれ」
「かか、我を殺すか。ルセオンやディルグと一緒と思うてくれるなよ。我は魔王ぞ」
「関係ない」
「愉快、愉快だな勇者よ。くかかかかかっ」
腹の底から響き渡らせるような魔王の笑い声が闇夜を切り裂いた。




