5日目 14時から15時 帰り道
ミーシャの家を出た俺たちはエンブルームの街に向かって馬を走らせていた。といっても、俺は自力で走っているわけだが。
「どうして一緒の馬に乗ってくださらないんです」
「修行のためだって言っただろ」
実験的治療を待つことも考えたが、実験には環境を整えたり時間が掛かるため俺は先へ急ぐことを決めた。止まっていても何があるかわからないのだ。
日本に戻る日は遅くなるし、魔王が俺たちを待っていてくれるはずもない。勇者として召喚されて僅か五日の間に、幹部クラスの配下の襲撃を二度も受けているのだ。次も退けることができるとは限らない。
呪いの進行が怖いわけではないけども立ち止まることはできない。
それでも魔法の使用は最低限に抑えるつもりであるが。だからこそのジョギングでもある。馬と並走しながらも、感覚的に小走りだと修行になっていない気もするが。
「走るだけでは修行にはなりませんよ」
「そんなことはないだろ。まあ、でも、俺も初期に比べるとかなりレベルが上がってるけど『幽遠の尖塔』でのレベル上げに問題はないのか」
「話を逸らしましたね。でも、そうですね。『幽遠の尖塔』に関しては心配することはありません。あのダンジョンは上層に向かうほど魔物のレベルは上がっていきます。いまだ最上階は見えていませんので、レベル上げするのにあの場所以上の場所はないと思います」
「四天王以上の敵もいるのか」
「ダンジョンの上層には龍種もいるという話ですので、四天王の力を大きく上回るものと想像されます」
「龍種っていうのはそんなに強いのか」
「ダンジョン内で生まれる龍種はキエン大陸に住まう本物の龍種には劣りますが、それでも魔族を超える存在だと思います」
「そこまで分かっているなら、その龍種との戦闘の記録もあったりするのか」
「二度『幽遠の尖塔』内の龍種は討伐されています。1度目の記録は不確かですが、二度目の討伐は私たちの王国の精鋭によるものでした。詳細な記録が残っていますが、それを見た限りルセオン以上の力があったと推測されます」
「なるほどね」
修行の場としては問題ないということか。
「ちなみに龍種と魔王はどっちの方が強い」
「龍種は神に近しき存在です。魔王でも適うとは思いません。ダンジョン内の龍種に関しては何とも言えませんが」
「で、そんな強敵がいるかもしれない幽遠の尖塔だけど、エリノスもセシルも同行することは問題ないのか」
「私はいつでもアキラ様にご一緒します」
「セシルは?」
「そんな上層まで付き合うつもりはなかったけど、ミーシャのこと感謝している。だから私もついて行くよ」
「いいのか? 治療できる保証はないんだぞ」
「それでも構わないわ。それに……いえ、とにかく私も行くことに決めたから」
「そうか。助かる」
「それはこっちのセリフよ」
何か含みがありそうだが、セシルが味方してくれるのはありがたい。後はイーナを何とか引き込みたいところだが、どうにか説得する方法はないかと考えながらエンブルームへと走っていった。




