5日目 12時から13時 二人目
嫌な気配を感じて後ろを振り返れば、豆粒のような黒点が徐々に大きくなってくるのがわかった。馬は時速40キロか50キロで森を疾駆している。それに追いついてくるということは、相応の速度ということだ。
「知り合いじゃないよな」
「え?」
俺の声にエリノスが振り返り、セシルやほかの兵たちも後ろを振り返った。猛烈な勢いで走ってくるのは黒褐色のフルプレートに覆われた騎士である。甲冑は騎士だけでなく馬にも兜などが被せてあった。振り上げている突き刺すように西洋式の槍を向けている姿を見れば味方ではないらしい。
「エリノス様!! お逃げください。ここは我々が引き受けます」
「そんなに危険な相手か?」
「ルセオン以上の魔力を感じます」
そんなに強いのだろうかと不思議に思った。確かに強そうではあるけども、ルセオンと遭遇した時のようなサバンナでライオンと遭遇してしまったような絶体絶命のピンチとは思えなかった。だが、ルセオン以上というのなら魔王軍の幹部という可能性が高い。そこらの野生の魔物でないのなら、逃げて終わりというわけにはいかないだろう。
「迎え撃とう」
「正気ですか!?」
驚愕に目を見開くエリノスに「速度を落としてくれ」といって馬の背に立ち上がった。乗り始めはなれなかったが、落ち着いて馬の動きに身をゆだねてしまえばステータスとともに上昇した筋力や体幹が乗り方を補佐した。
「セシル。前に見せてくれた『驟雨』ってのはまっすぐ放てるか?」
「あれは目くらましのようなものでそれほど威力はありませんよ」
「構わん。十秒後に頼む」
こんな状況で恐れることなく弓を構えるセシルをみて、彼女の素性が気になったがまずはと迫りくる黒騎士に目を向ける。
エリノスが兵士に黒騎士と俺の間に入らないように指示を出す。エリノスを守るべき兵たちは不満そうだが巻き込むわけにはいかない。それに自分たちの力が俺やセシルに及ばないことを理解しているのだろう。
黒騎士との距離は10メートルを切っていた。
「驟雨」
セシルが馬にまたがったまま器用に後ろに振り返りながら弓を射った。
一本の矢が無数に別れ黒騎士の視界を覆うほどに広がった。その瞬間、俺は馬の背を蹴って飛び上がるとすれ違いざまに剣を振るった。
前方に構えていた槍が跳ね上がり俺の剣を受け止める。
身体強化してスキル裂破を発動、斬撃補正4がありながらも黒騎士の槍に半分ほど刺さるが切断には至らない。焦りはなかった。グラストブルの首を落としたのは剣ではない。
剣術スキルが素人剣術の技量を押し上げているといっても、達人のような引き切るという技量のない俺にリザードマンの硬いうろこは切り裂けなかった。ゆえに魔法を使った。
何度も何度も練習してようやくそれをものにした。
黒騎士の体は真っ二つになっていた。




