5日目 10時から11時 セシルの事情
私はいわゆる暗殺者だった。
後天的に獲得した奥義スキルもあるが、生まれたときから『鷹の目』と『狙撃』を持っていた私にとって遠距離から敵を射殺す術を獲得するのは実に容易なことだった。だから、狩人といえばそうなのかもしれない。相手が人間か獣かその程度の違いしかないのだから。
殺しを生業としていても殺人鬼というわけではない。
いままで仕事以外で殺しをしたことは一度もない。ただ、それでも一度も無関係の人に迷惑をかけたことがないかと問われれば、あると答えざるを得ない。
私の暗殺は95%ほどの確率で相手を即死に至らしめる。つまり、20回に1回は二射目を必要とすることがあり、ミーシャはそんな標的のパートナーだった。
即死させることができなかったとしても、致命傷であることがほとんどで仮に二射目を放てなかったとしても殺害はほぼほぼ成功する。
ただ、この時ばかりは様子が違った。
ミーシャは神官であり神聖魔法の使い手でもあったのだ。
私の矢を受けた標的に対して、治癒の奇跡と呼ばれる秘術を即座に掛けた。しかし、私の攻撃は大きく相手の臓器を傷つけていて、ミーシャの力では治すことは困難だった。
すぐに魔力の底をついたミーシャは魔力回復薬に手を伸ばした。無理やりに魔力を回復させ、重複して治癒魔法を掛け続けた結果、彼女のパートナーは奇跡的に窮地を脱することとなった。
その代償は言うまでもなくミーシャに呪いという枷をはめた。
いまもって彼女が毒でもある魔力回復薬を持っていたのかは不明だが、彼女の献身的な姿を見たとき暗殺者としての人生が幕を閉じた。
今まで殺した相手に家族や友人といった、死を嘆き悲しむものがいることを考えなかったわけではないが、それを気にしたことはなかった。でも、あの日から私は人に向けて弓を引くことができなくなっていた。
私の暗殺は失敗に終わったけれども、依頼主がそれで満足するはずもなく次の暗殺者が派遣され、ミーシャの助けたパートナーは結局のところ命を落とした。パートナーの死と呪いの影響で荒れ果てたミーシャは一人ひっそりと暮らすようになり、私はそんな彼女に近づいて症状を抑える薬を届けるようになっていた。
しかし、仕事を辞めた私の貯蓄は日に日に減っていく一方だった。だから、王女様や勇者の仕事を受けたのだけど、これは僥倖だったのかもしれない。
エリノス殿下の齎した情報はまさに天啓のようなものだった。




