5日目 9時から10時 解呪の方法
ベンチで思考の海を泳いでいると、エリノスが声を掛けてきた。
「お隣よろしいですか」
「……ああ」
ぶっきらぼうに返事を返せば、エリノスがベンチに腰を落とす。狭いベンチでは体が密着するほど彼女を近くに感じる。
「アキラ様に起きた現象をいくつか検討してみました。城の識者からも意見をもらったのですが、呪の原因はエーテルじゃないかと考えています」
「エーテル? だが、それは何も問題ないはずだろう」
大気中に漂うエーテルが原因で呪われるというのなら、この世界にいるすべての人間が呪われていなければ話にならない。
「ええ、魔力回復薬を使うことで呪われるとご説明しましたけど、それが間違いだったのかもしれません。魔石には魔力の元となるエーテルと、呪の元になるものが含まれているという解釈をしていましたが、それがそもそも誤りだったのではないかと考えています。
エーテルが魔力の元であり、呪の元と考えれば分離することができないのも当たり前なんです」
「だけど、それじゃあ……」
「ええ、そこで考えたのがエーテル濃度が問題だったのではないかというものです。ある濃度までのエーテルであれば問題なくても、一定ラインを超えると毒となる。そういうことではないかと推測しています。加えてアキラ様の世界にはエーテルがないという話ですので、体が慣れていなかったことも関係していると思います」
エーテルギャザリングという魔法が不味かったということか。それにこの世界になれる間もなくエーテル濃度の濃いダンジョンに潜ったり無茶をしていた。それらすべてが原因だと言われれば、
「俺の所為だと言いたいのか?」
「ち、違います。そうではありません」
慌てるように首を激しく降ると、エリノスが俺の手を優しく包み込んだ。
「アキラ様は一日でも早くこの世界に平和を齎そうと一生懸命に動いてくれたのです。その結果、こんな事になってしまったことについてはお詫びのしようもありません。
で、ですが、呪いの原因がエーテルそのものであるとしたら、解決策も見つかるかもしれないのです」
「どういうことだ」
「呪われたものは最終的に魔物に化すといったことを覚えていますか」
「ああ」
「魔物化するということは、当然その体には魔石が存在します。これは仮説にすぎませんが、呪状態にあるアキラ様の体の中にもすでに魔石が生まれつつあるのではないかと考えらます」
「つまり、それを取り除けばいいと」
「ええ、ですが、ことはそれほど単純ではありません。魔石は通常心臓に近い位置に存在します。そんな場所にある魔石を抜き取ることは不可能です」
「じゃあ……」
「魔石は魔力の結晶化したものと言いましたよね。魔石は魔物の体内でエーテルを取り込みながら少しずつ成長していきます。ですが、逆にエーテルのない空間においては魔石からエーテルが放出されて行きます。アキラ様にはエーテルのない空間でしばらく過ごしていただければ体内に発生した魔石が消滅するのではないかと考えられます」
「……リスクはないのか?」
「問題はそうですね。魔物はエーテルのない空間では生きていけません。それは魔石の消滅が死を意味するからです。ですが、アキラ様は人間ですのでその心配はないでしょう。それから、二つ目はどのくらいの時間、そこにいればいいか分からないことです。数日なのか、一月か、一年か……そもそもこの方法は仮説にすぎませんので」
「誰かに実験させるわけにもいかないしな」
「いえ、それに関しては心当たりがあるんです」
「ん」
小首を傾げる俺に対してエリノスが、可能性ってだけですけどねと小さく答えた。




