4日目 15時から16時 ギガートン(3)
「GURAAAAAAAAAAAAA―――」
大絶叫が耳だけでなく体中を震わせる。
あまりの音量に耳を塞ごうとした瞬間、静寂が訪れた。
鼓膜が破れたのだと遅れて理解する。
一度目は皮をわずかに切り裂いただけだった斬撃は、ギガートンの右前足をひざ下を半ばから切り裂いていた。硬い皮膚を越え、筋肉の先の骨まで見えていた。
絶叫に勝るとも劣らない大量の血液が噴出し、ギガートンの巨体が地面に崩れた。巨獣を受け止めた大地は揺れ、エリノスがバランスを崩しそうになるのを受け止めるとその場から離脱した。
―耳をやられた。
自分の声すら聞こえないという初めての感覚に戸惑いながらエリノスに言えば、一瞬驚いたような顔をするもののすぐさま何かの詠唱を開始した。
回復をエリノスに任せてギガートンへと向き直る。
一度は横転したとはいえ、ギガートンは鋭い眼光で俺を睨みつけながら体を起こした。血はどくどくと流れているし、さっきまでの突進攻撃はできないだろうに些かも闘争心は失われていなかった。それどころか、怒りをにじませている分、厄介なのかもしれない。
手負いの獣は危険だという。
ならば機動力が損なわれたからといって不用意に近づくのは得策じゃないだろうと、先ほど考えていた案を実行する。
―燃え尽きろ、ファイアボール。
掌をギガートンへと向けて火球を放つ。が、火球が想定していたサイズを遥かに下回る。魔力が切れかかっている?
さっきから思考加速と身体強化を併用し、その上『裂破』を二度も放っている。いずれも魔力消費量の大きいスキルである。だが、体内に感じる魔力量はまだ底をついたという感じはしなかった。
「――を受けています」
「何だって?」
唐突に戻ってくる音声と、エリノスの警告。
「魔法の妨害を受けています。ギガートンにそのような力はないはずなのですが……」
「別口か?」
「最初は防御結界も普通だったので、その可能性があるかと思います。ですが、ここにデバフ効果の魔法を使う魔物もいなかったと――きゃぁ」
ギガートンが三つ足のまま突進をしてきた。足を一本損なっているとは思えない速度と強烈なプレッシャーを携えている。
防御魔法にさえ影響を受けているのであればと、エリノスを抱えてギガートンから距離を取る。身体強化には影響はないらしい。だが、そう長く使えるものでもないのは確かだ。
「ギガートンは俺が何とかする。エリノスは周囲への警戒を頼む」
「わかりました」
目の前の強敵を相手にしながら、いまだに姿の見えない敵の警戒をする。厄介だけど、やってやれないことはない。
大型プロジェクトに取り組んでいる最中に、上司に新しい仕事を振られたのだと思えば、なんだ? いつも通りのことじゃないかと思えてくる。
こんな状況を楽しみ始めている自分に違和感を感じながら、気を引き締めてギガートンに向かっていった。




