4日目 15時から16時 ギガートン(1)
毎日更新は続けるつもりですが、
来週月曜まで更新のタイミングが安定しない予定です。
地響きのする方へと顔を向ければ乱立する木々の向こう側に巨大な影が見えた。
「何だあれは」
「あれがギガートンです。結界を張りますので近くに!!」
初めから戦うことが無理だと宣言するようなエリノスの発言に思うところはあるが、だんだんと近づいてくるソレを見れば、一人で戦う相手じゃないというのがよくわかった。
一言でいうなら巨大なサイの化け物だ。
頭の前から突き出た太く鋭い角、毛の少ない分厚そうな皮膚、決定的に違うところはその大きさ。見上げるほどの巨体は体高で5メートルを超える。体は全体的に緑と青が混ざったような色合いをしてい足元は血管の筋のような部分だけが黒く浮き出て、まるで黒炎を纏っているかのようだった。
「一人じゃ無理か……」
エリノスの前で剣を構えつつ、ギガートンの動きを観察する。
木々をなぎ倒しながら眼前へと迫ってきた巨体をエリノスの展開した防御結界は弾き返した。
「うっ」
「大丈夫か」
「ええ、何とか、ですが、どれだけ耐えられるか」
神聖術による結界には数種類あるそうだ。一つは魔物が来ないようにするホーリーフィールド(神聖なる領域)、それからエリノスがいま使っている防御結界。これは魔法だろうと剣だろうと、光以外のすべてを弾く。極端に言えば、防御結界で体の周囲を覆いつくせば、空気の循環もできなくなりいずれ窒息する。
ただ、防御結界の強度は術者の力量と魔力量で決まるため、ある程度の力で叩き続ければ破壊することも可能なのだ。
ギガートンが角を突き上げる様にして防御結界に体当たりを繰り返す。その度に地響きを超える衝撃が結界に生じて中にいる俺たちの体まで震わせていた。
エリノスが持たないというのなら、防御結界が維持できる間に倒す算段を付ける必要がある。急に取引先から見積もりの依頼を受けたが、部下も同僚も手いっぱいで俺一人で何とかするしかないという状況だと考えれば、結局いつもと変わらない。
それに、おそらくだがこいつを招いたのは俺の失策だ。宝箱を開けたときに感じた”何か”、それがギガートンを呼び寄せた。だとすれば自分のケツは自分で拭うのが大人というものだ。
「エリノス。次の突進を受け止めたら一度結界を解いてくれ」
「どうするおつもりですか」
「とりあえず斬ってみるさ」
剣を大きく振りかぶり、馬車の中でさんざん練習したスキル『裂破』を出せるようにと意識を集中する。
結界が通さないのは何も相手からの攻撃にとどまらない。結界越しに一方的に攻撃を当てれるほど便利な代物じゃないらしい。魔法なんて不思議なものがある割に、意外なところで現実的だなと俺は思う。
突進してくるギガートンの強烈な頭突きを受け止めたエリノスが結界を消失させる。目の前にあった薄い膜が消えたのを確認すると、巨大な壁にぶつかってほんのわずかに後退したギガートンの懐へと入り込む。
ワイルドボアをやった時のように、首の下を切るには厳しい距離。裂破はわずかに斬撃が飛ばすため、実際の間合いは伸びる。だが、届くかどうかが際どい以上は冒険は慎む。
一閃した剣がギガートンの右前足を切り裂いた。
だが、浅い。
表皮だけで十センチ以上はありそうなギガートンの硬質な皮膚。血が出ている以上は真皮にどうにか届いたのだろうが、筋肉まで切り裂けた自信はなかった。
咆哮を上げるギガートンを真上に見上げれば、一瞬にして影が濃くなるのがわかった。
巨大な足が振り下ろされてきていた。




