3日目 21時から24時 目的地変更
「これっていつまで続けるの」
「訓練が終わるまで頼む」
「だから、それっていつなのよ」
「体力の限界が来たら終了だ」
「……」
若い人間に根性がないのは世界が変わってもおんなじらしい。まだ、夜の9時を回ったくらいでしかなし、文句を言うなら天辺を過ぎてからにしてほしい。
イーナの協力のおかげで、スキルでの魔力の行使と回復がいい具合に拮抗している。最初、並列思考を使って二つの魔法を同時使用したが、さすがに魔力の減少が早くなりすぎて枯渇した。だが、普通の魔法を使う分にはそこまで問題はない。
火の玉を出してジャグリングすることに意味がないとは思わないが、一人で行う訓練、しかも馬車の中という狭い空間において出来ることというのは正直限界を感じてきている。仕事だって実際にやってみて初めて気がつくことというのは無数にあるのだ。
「幽遠の尖塔まであとどれくらいかかるんだ」
「昼夜問わずの強行軍でも3日は掛かると思いますので、あと二日以上は」
「そうだよな。それまで馬車の中で訓練をするしかないのか……この辺でちょうどいいレベルの魔物が出るところはないのか」
「そんなに都合のいい場所なんてあるわけないよ」
「エンブルームでしたら近くにダンジョンが一つありますよ」
「エンブルームの近くというと、セーデガーでしょうか」
「はい」
「セシルが用事のある町だったか」
「えっと私の目的地は正確にはそこから半日ほど行った場所になるんです。ですので、用事を済ませて一日遅れで追いかける予定でした」
「つまり、エンブルームでセシルを待つのも一つの手というわけか」
「はい。ずっと馬車の中というのもつらいと思いますので、足を延ばしても悪くないのでは?」
「はい、はい。賛成!!」
セシルの提案にイーナがすごい勢いで賛成を表明する。その提案は悪くないかもしれないと思う。このまま訓練をするにしても、実際に戦闘をして悪い点を洗い出ししてから訓練内容に反映させた方が効率がいいだろう。いわゆるPDCAサイクルを回すということだ。
「悪くない話だな。ダンジョンの規模と魔物の内容は」
「フィールド型のダンジョンで規模はかなり広いです。魔物はオーク種が多いので、比較的戦いやすいと思います。ただ、キメラやギガートンもいますので注意は必要ですけど、アキラさんなら問題ないかと」
「なるほど、エリノスはどう思う」
「私ですか。私もアキラ様の今のレベルに十分適していると思います。それに、正直申し上げますとずっと馬車の中というのは……」
「わかった。じゃあ、そう言う風に予定を変更しよう。エンブルームは明日の昼頃に到着予定だったよな」
「ええ」
「よし、じゃあ、今日の訓練は終わりでいいよね」
「は? 何言ってんだ」
「え、でも、今後の予定も決まったんだし――」
「それとこれは話は別だ。俺はまだまだいけるからな」
「うへぇ」
イーナのうめき声を無視して、俺の訓練は続く。火の玉のジャグリングに始まり、風の刃でリンゴの皮むきをしたり、たまに思考加速や身体強化をして魔力を大量に消費して枯渇してくれば、剣の素振りをして魔力が回復するまで我慢する。そして回復してくれば、水魔法でシャワーを浴びたり、光魔法の研究をしたりした。そして天辺が見えてきたところで、ようやく訓練を終了することにした。
イーナの疲労の色が濃くなってきたからだ。
彼女にはこの先も訓練を手伝ってもらう必要がある。ともすれば、これ以上の酷使は可愛そうだと思ったのだ。出来る上司というのは部下への気遣いができてこそだと思う。




