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3日目 20時から21時 イーナの受難

 ボクが一体何をしたっていうの?

 日も沈みあたりが暗くなってきたところでレイエムの森が近づいてきているのがわかった。レイエムの森は昼間でも薄暗く魔物の多く生息する場所で、人間が入ることはほとんどないとされる森だ。

 これはチャンスだと思った。交代の時間になったところで、ボクはこっそりと幽遠の尖塔に向かう馬車から離れようとしたその瞬間、


「驟雨」


 セシルとかいう狩人の声が聞こえたかと思うと、空からレイエムの森に向かって流星雨のように無数の矢が降り注いでいた。


 え?

 なにそれ?

 森に入れば蜂の巣にするとでも言わんばかりのデモンストレーション。逃げればどうなるかわかっているよな。と勇者が耳元で囁いたような気がしてボクは身を竦ませた。


「イーナ、ちょっと来てくれ」


 時が止まったかのように長い沈黙を勇者の声が打ち破る。


「はひぃ」

「ん、どうしたんだ?」

 

 思わず漏らしてしまった悲鳴に不思議そうに首を傾げる勇者に、最大火力の魔法を叩きこみたい衝動に駆られたのをぐっと我慢する。勇者はどうにかできると思うけど、あの狩人はマジでやばい。さっきの技を見れば、ルセオンへの一撃がまぐれじゃないことは猿でもわかる。火力という点において騎士を上回る魔導士のボクから見ても桁違いの威力だ。


「ちょっと、協力してくれ。風魔法は使えたよな」

「も、もちろん。天才魔導士のボクは全属性の魔法が使えるって言ったよね」


 気を取り直して応えると勇者が嬉しそうな顔をした。


「よかったよ。俺以外、ここに風魔法のスキル持ちがいなくてな。実験は成功したけど、自分でやるわけにはいかなくて協力者が必要だったんだ」

「何をすればいいの?」


 聞き返してから協力する流れになってしまったことを舌打ちするも後の祭り。まあ、逃げようとすれば殺すと脅された以上、話を聞くしかないけどもその話自体が荒唐無稽過ぎた。


「馬鹿でしょ。そんなことできるわけない。ボクの勤務時間は終わったんだから早く休ませてよ」

「信じられない気持ちはわかりますが、アキラ様が我々の前で成功させたのです」

「そうそう、私も実感したから間違いないよ」


 一刻も早く勇者から距離を置きたいというのに、王女とセシルが邪魔をする。

 大気中のエーテルを集める? 王女の言葉といっても鵜呑みには出来ない。エーテルは魔力の元となるものだと言われているが、その実在すら証明されていないのが現状。宮廷魔導士第6席のフォーゲルが研究していると聞いたことはあるけど、何の発表もないところを見ると成果はないと思う。


「仮に、仮にだけど、それができるとして何がしたいのよ」

「単純な話さ。エーテル濃度を上げることができれば魔力の回復が早くなるだろ。スキルの練度を上げようと思っても魔力がすぐに枯渇して訓練にならないんだ。訓練を続けるためには、魔力を今の何倍もの速度で回復させる必要がある。そういうわけだ」

「馬鹿でしょ」


 下手をすれば魔導学史上類を見ない大発見かもしれないエーテルを操作する魔法を、訓練するためだけに生み出したというのか。天才魔導士のボクですら、新たな魔法の創造にはいまだに至っていないというのに!!

 あり得ない。あり得ない。あり得ない。あり得ない。あり得ない!!

 

「とりあえず俺の言う通りにやってみてくれ。話はそれからだ。これが使えるかどうかもまだわからないからな」


 ボクの心の葛藤に気付かず勇者が話を進めようとする。仕方のないやつだ。


「わかった。そこまで言うならやってあげるよ」


 魔法はイメージの力がものをいう。だから、ひとまず心の底から勇者の戯言を信用することにする。現象を起こせると信じられなければ、魔法は発現しない。もちろん、魔法陣を構築することで、誰にでも魔法を使える形にすることこそが正しいあり方なのだけど。


「エーテル・ギャザリング」


 勇者の言葉通りのイメージを構築して魔法を展開。ボクが魔力を周囲の空気の流し込むと、エーテルの濃度が確かに上がったのがわかった。天才魔導士たるボクは自分の中の魔力量を0.01%刻みで把握している。普段回復する魔力量と比較して圧倒的に今の方が回復速度が速いのだ。それはつまりエーテルの濃度が上がったということ。


「よし、上手く行ってるみたいだな。それを維持しててくれ。俺はこっちで訓練するから」

「は? ちょっ……」


 止めるのも聞かずにバカ勇者が修行と称して、スキルを発動させた。右手で火魔法を左手で風魔法を操っている。天才魔導士のボクですら5年かかった技をなんで、昨日今日魔法を覚えた人間が使える? いやいや、その前に”エーテルギャザリング”を維持しろって。

 魔力の回復が促されるけども、この魔法を使い続けるのはかなり体力を消耗する。普通の魔法は一度発動すればそれで終わりだけども、これは周囲の空気に働きかけ続ける必要がある。何しろ動く馬車の中、空気は常に流れているのだから。


 え? 

 もしかして、今日も眠れないの?

 このバカ勇者が修行終わるまで、休み時間もないってこと?

 逃げることもできないし、どうしたらいいんだよー。

 

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