3日目 18時から19時 魔力回復方法2
「エリノスとセシルは少し離れていてくれ」
「何をしようとしているんですか」
「風魔法の可能性を探ってみる」
「馬車の中でやったら危険ではありませんか」
「だから、少し離れていてくれ」
エリノスとセシルから距離を取ったところで風魔法のイメージを構築する。ちなみに、エリノスとセシルといっているがエリノスの侍従たちもいるので厳密には彼女たちにも壁の方に移動してもらっている。
「まずは酸素濃度を下げる」
イーナに教えてもらった風魔法は風で敵を切り裂くウインドカッターという直接的な攻撃手段だった。練度を上げていけばもっと大きな範囲で暴風を巻き起こしたりできるようになるそうだが、早い話が空気をコントロールする力が風魔法ということだ。
つまり、いま行っているのは空気の構成要素に絞って操ることが出来るかのテストだ。
自分の周りの空気から酸素を遠ざけるイメージを行いながら魔力を解き放つ。
「オキシジェン・エリミネイト」
魔法名を口にする必要はないんだが、拳銃の引き金を引くようにきっかけを与えないと今のところ発動に至らない。30近いおっさんには苦行でしかないが、出来ないものはできないのであきらめる。 とにかく魔力が体から出たので、魔法は発動したらしいが風の刃が飛ぶわけでもないので効果が今一つ分かりにくい。
そろそろ呼吸が苦しくなってきてもいいと思うのだが今のところ息苦しさはない。イメージの仕方が悪かったか。あるいはピンポイントで酸素のみに働きかけるのは難しいということだろうか。
ドサッ――。
「リリー!!」
馬車の奥で侍女が一人が唐突に意識を失って倒れてしまった。横にいた別の侍女が声を掛けたが、彼女も同じように気を失った。
まずい!!
「扉と窓をすぐに開けてくれ」
魔法は成功すると同時に失敗していた。範囲指定がうまくいってなかったのか、そもそも密閉空間全体に影響したのか、どちらにしても酸素濃度が下がったことで二人の侍女が酸欠に陥ったということだろう。
「二人をなるべく扉の近くに移動させてくれ」
「はい」
本当なら男の俺が動いた方がいいんだろうが、王女についている侍女はそれなりの身分らしいのだ。だから、手を出さずに新鮮な空気が入りやすいように風魔法で風を起こした。
「とにかく新鮮な空気を吸わせてあげてくれ、多分それで回復するはずだ。顔色が戻ってくれば大丈夫だと思う」
「なにが起きたんですか」
エリノスが詰め寄ってくる。いきなり自分の侍女が倒れれば怒るのも当然だろう。俺の配慮が足りなかったと反省する。
「悪い。魔法が失敗した。空気中の酸素濃度っていってわかるか?」
「いえ、なんでしょうか”酸素”とは」
「空気に含まれている成分の一つで、生き物にとって必要不可欠なものだ。その濃度を下げようとしたんだ。本当は俺の周りだけのつもりだったんだが、彼女たちの所に影響したらしい。本当に申し訳ない」
「そんな危険な魔法をご自身に向かって使用していたのですか」
「あ、いや、そこまで危険はないと踏んでいたんだ。酸素濃度が下がれば多少なりとも息苦しさを感じるはずだから。たぶん、彼女たちも感じていたと思うが――」
「我慢していたと」
「おそらく」
「なるほど、わかりました」
どうにかエリノスは納得してくれたみたいだけど、ほかの侍女たちの視線が痛い。気を失った二人の顔色も戻ってきているが、まだ意識は戻ってきていないままだった。
「恐ろしい魔法ですよね。相手は何をされているのか気付かずにその影響をうけるってことですよね」
「それはそうだが……いや、そもそも俺が使いたい魔法はこれじゃなくてだな」
セシルの言葉にはっとした。確かに魔王や魔族も生き物である以上、たぶん酸素は必要だと思う。彼らに気付かれずに魔王のいる部屋の酸素濃度を下げることさえできれば、それだけで魔王討伐は完了する。本来は魔素を集めるための予行練習のつもりだったのだが、思わぬ副産物を得たのかもしれなかった。




