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3日目 9時から10時 イーナの愚痴

 帰りたい。

 城で魔法書を読みながらダラダラしたい。

 なんでボクがこんな目に合うんだろう。

 ボクは天才魔導士なのだ。

 宮廷魔導士の将来を背負って立つ人間のはず。だから、こんなところで万が一なんてあったらダメだと思う。王都の魔法学園を首席で卒業。それも飛び級を二回もした。

 周りの期待を一身に背負って宮廷魔導士の末席に名前を連ねることになった。

 故郷のお父さんもお母さんも鼻高々だと言っていた。

 宮廷魔導士が”一応”軍部の一組織だという話は知っている。だから、有事の際に戦争に駆り出されることはわかっていた。

 でも、それは本当に切羽詰まった時の話で、それに魔導士は戦闘の一端を切り開くための大魔術を遥か後方から放つポジションで、そんなに危険はないはずなのだ。


 なのになんでボクが最前線で死闘を繰り広げなきゃならないのよ。

 王都の初心者ダンジョンはまだいいよ。

 前線っていっても、精々がスケルトン程度。天才魔導士のボクにとっては本を読みながらでも指先でちょこちょこっと倒せる魔物だもの。

 でも、『幽遠の尖塔』あそこはダメだ。

 下層はともかく、あのバカ勇者が上に登って行かないわけがない。

 20階を超えると危険度が桁違いだというけど、あの男が話を聞くとは思えない。肝心の王女様があれじゃあ、誰が止めるんだって話だ。

 あの王女様はダメだ。

 どういうわけかバカ勇者に心酔しているっぽいもの。

 アレのどこがいいのかボクにはさっぱりわからない。

 

 大体、ルセオン戦での怪我もまだ完治していない人が多いというのに早々に出発するとかマジであり得ないから。王女様の魔力が回復すれば、残りの怪我も治癒してもらえるとは思うけどそういう問題じゃないよね。

 王女様もたいがいだと思う。

 ボクは天才ゆえに軽症で済んだけど、あんな化け物とこの先も戦う可能性があるとかマジで勘弁してほしい。っていうか、魔王って何者なの。

 勇者が召喚されて一日もたたないうちに幹部を送り込んでくるとか動きが速すぎない? そんな化け物ならルセオンに次いで別の四天王が出てくるとかないよね。

 

 逃げる?


 幸いにして天才魔導士たるボクは飛翔の魔法が使える。

 というよりも、いまも馬車の横を飛びながら並走している。並走しながら魔法で適当に魔物を殺したりするほど天才だったりする。普通の人間には二つの魔法の同時使用は無理だというけど、天才のボクは軽々やってのけるのだ。

 いや、本当にボクがどれだけ貴重な存在か考えてほしい。


 宮廷魔導士の仕事は給料はいいし研究に没頭できるし言うことは何もなかった。でも、今の状況を考えたら逃げた方がいいよね。


 うん。


 考えれば考えるほどいい考えのように思う。

 元宮廷魔導士だといえば、どこかの研究機関で再就職もできると思う。追手が来る可能性はあるから、一応見た目を変えるとして――


 斬!!


 いきなり飛んできた斬撃にボクは圧縮空気をぶち当てる。


「あぶなっ!!」


 圧縮空気が切り裂かれた?

 驚いたボクの頬を不可視の斬撃が通り過ぎる。一拍遅れて感じる痛みに手を添えれば、ぬるりと血が手についた。辛うじて圧縮空気が斬撃の軌道を反らしていたからよかったものの、下手をすれば首を裂かれていた可能性すらあった。

 しかも、その一撃は前方でも後方でも上でも下でもなく、ボクが警護している馬車の中から放たれていた。


「ちょっと、今の何!!」


 王女様の乗っている馬車であることも忘れて、勢いよく扉を開けると剣を振りぬいた姿勢のバカ勇者が肩で息をしながらにやりと笑っていた。


「はは、ようやくうまくいった。はぁ、はぁ、疲れた」

「な、な、な、な、な!! お前か!! なんで警護している連中に殺されなきゃいけないのよ。こんのバカ勇者!! 場所を考えて剣を振るえ!!」

「え? あ、もしかして、その怪我……わるい」

「悪いで済むか―」

「イーナさん。顔から血が……大丈夫ですか。とりあえず治しますね『ヒール』」

「ありがとうございます――ってそうじゃないわよ」

「あ、あの、イーナさん?」


 ダメだ。

 こいつらについて行ったら私死ぬ。

 下手したら味方に殺される。


 やっぱり逃げよう。

 それしかない。

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