閑話 カナデ(2)
「旦那がいなくなった……ね。逃げた可能性はないのか」
「逃げたって何からですか? 私の旦那様はつらいことから目を背けるような人じゃありません」
警察署について夫の失踪について話をすると、対応してくれた警察官はそんなことを言ってきた。警察を頼って本当に大丈夫なのかと不安になってくる。
「もっと真剣に聞いてください。夫は仕事中に突然いなくなったんですよ。何かの事件に巻き込まれたのかもしれないじゃにですか。携帯にいくらかけても反応がないんです。警察だったら携帯のGPSとか調べられないんですか」
「もちろんですよ。そのための行方不明者届なんですから、しっかり記載してください」
「わかってますよ」
空欄を埋めていきながらも考えるのはアキラ君のことばかりだ。
目の前の警察官はまるで当てになりそうもない。事件に巻き込まれたかもしれないと訴えているのに、私が書類を書くのをじっと待っているだけで何もしないのだ。
会社の人から聞いた情報をもとに、アキラ君がいなくなるまでどの辺にいたのかはわかっているのだ。だったら、その近くの駅の監視カメラをチェックするとか、交通事故が起きななかったとか確認することはいっぱいあると思う。
でも、何もしない。
「あの、本当に探してくれるんですか」
「もちろんですよ。何かあれば旦那さんの情報が入ってくるように連絡はいれますから」
「……それって何もしないのと同じじゃないんですか」
「いいですか。奥村さん。子供の失踪と違って大人の場合は、本人の意思でいなくなる場合がほとんどなんですよ。聞けばブラックな会社にお勤めだというし、もうすぐお子さんが生まれてくるのでしょう。親になるプレッシャーに耐え切れずっていうのも考えられると思います」
「アキラ君はそんな人じゃありません」
「そうですね。家族や知人というのはいつだってそういうものなんですよ。まだ、いなくなって数時間でしょう。もう少し様子を見てはいかがですか」
頭の悪い私にもはっきりと分かった。
警察じゃダメだ。
この人たちは探す気が全くないんだ。警察は事件が起こってからしか動かないというけど、本当にそうなんだ。
「書類はこれでいいですか!!」
私は行方不明者届を叩きつけるように警察官に渡すと、足音を響かせながら警察署を後にした。
どうしたらいいの?
誰に相談したらいい。
わかんないよ。
その時、おなかが蹴られたのがわかった。
「ごめん。心配かけちゃったね」
お腹を擦ってまだ見ぬ我が子に話しかける。
母親になる私が取り乱したら、この子はもっと不安になる。
しっかりしろ、私。
私一人じゃ多分ダメだ。誰かに相談しよう。




