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2日目 19時から20時 狩人のセシル

 時刻は7時を回り夕食の時間だというが、ボーグやホルバートの死体を見てしまうと食欲がわいてこなかった。自分の置かれている状況を改めて認識した、というよりもさせられたように思う。

 一つ間違えれば死ぬという事実を突きつけられ、逃げ出したい気持ちが湧かなかったといえばウソになる。だけど、逃げ出すわけにはいかない。

 俺はスマホに入っている嫁の写真を見て気持ちを奮い立たせた。飯をしっかり食べて強くなるならなければと意識をシフトし、野菜の入ったスープを無理やり流し込んだ。


「よくもまあ飯が喉を通るもんだ」

「ほんとだぜ。あいつには心がないのかよ」


 わざと聞こえるように小言が飛んでくる。頭を下げたところで、すべての者が留飲を下げてくれたわけではない。それは仕方のないことだと聞き流しながら、俺はテーブルの上のパンをつかんだ。しかし、俺の食事の邪魔をするようにテーブルに影が差した。悪口だけでは足りなくて実力行使をしようと誰かが来たのかと顔を上げれば、ルドアと見覚えのある女性が一人立っていた。


「食事中に悪いが、こちらの方を紹介させてくれ」

「ん?」

「わざわざいいですよ」

「いえ、そういうわけにも参りません。我々の大恩人なのですから。まあ、逆にこの男を紹介する意味の方がないように思えますがね。こちらは先ほどの戦いの際に、助力いただいた狩人のセシル殿である。貴様も知っているだろう。ルセオンの胸を貫いた一撃を」

「あ、ああ。おかげで助かりました。セシルさん、本当にありがとうございます。あなたは命の恩人です」

「そ、そんな大げさな。私は矢を一本射っただけですから」

「その一本が重要でした。あの矢がなければ、私も王女様も、あの場にいた人達にももっと被害が出ていたはずなんです」

「そんなに褒めないでください。正直、通じるかどうか賭けだったんで、かなり遠くから射たんです。ダメなら逃げようって。私のスキル『破絶』は10日に一度しか使えないけど、かなり高確率で急所を貫けるんです。ほんとうまくいってよかったですよ」

「それはすごいな。そのスキルなら魔王を倒すこともできるんじゃ――」

「ま、魔王ですか!! さすがにそれは無理です。あまりに能力に差があれば通じませんし、あの魔族は皆さんが弱らせていたから何とかなったんだと思います」


 謙遜して顔をぶんぶん振り回すセシルの顔を見ていると、どこであったのかようやく思い出した。


「ひょっとして馬屋でお会いした方ですか」

「え、ええ。そうです。あの時はありがとうございました。お蔭さまでこうしてエンブルームに迎えていますので」


 不思議なもんだ。あの時彼女が馬を借りれなかったら俺たちは全滅していた可能性もあるということか。


「それはよかったよ。本当にね」

「それよりお体は大丈夫ですか。戦いの後、気絶されたそうですけど成長酔いですよね」

「成長酔い?」

「勇者様はご存じないでしょうか」

「それについては私の方から説明しておこう。セシル殿もお食事をされるでしょう。長々と話に付き合わせて申し訳ありませんでした。ささ、こちらへどうぞ」


 ルドアがそういってセシルを連れていった。あとに残った俺は仕方なく食事の続きに戻った。帰ってきたルドアに成長酔いについて聞いてみると、遥かに格上であるルセオンを倒したことで、俺はかなりのレベルアップを果たしたらしいのだ。急なレベルアップに体がついてこれず、気絶したということらしい。

 目覚めてから感じていた体の違和感もそれが原因ということだった。

 

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