2日目 11時から12時 幹部襲来(3)
転移結晶に魔力を注ぎながら本当にこれでいいのかしらという思いが頭を掠めてしまいました。魔王を倒せるのは勇者以外に不可能とはいえ、アキラ様に任せて本当に大丈夫なのかと考えてしまいました。
不敬かもしれません。
でも、強敵を前に逃げ出すような人が果たして魔王に立ち向かうことができるものでしょうか。
私は子供のころから勇者の物語が大好きでした。
何度も何度も読み返した物語の中に、勇者が仲間の命を見捨てたことなんてありません。勇者はいつも仲間とともに力を合わせて強敵を倒していました。そんな勇者に私は憧れていたんです。
もちろん、アキラ様の言い分が理解できないわけじゃないんです。
私たちは勇者を失うわけにはいかないのだから。
アキラ様が言ったように代わりの勇者を召喚することはできません。次元に穴を開けるための必要なエネルギーを集めるには長い年月が必要になります。もしくは魔王の体内にある魔石を使うかですけど、魔王を倒すために魔王の魔石が必要というのは本末転倒です。
「逃がすか勇者!!」
転移結晶に魔力の充填を始めたことをルセオンに気付かれてしまいました。ルセオンの攻撃を残された者たちが懸命に防いでくれていますが、転移結晶の作動にはもう少し時間が掛かりそうです。私の中に芽生えた迷いが、注ぐ魔力を抑えてしまったのかもしれません。
「ぐはっ」
眼前に迫ったルセオンの攻撃をうけたボーグから夥しい量の血が噴き出しています。それでも、私たちを守るためにボーグは必至の抵抗を続けてくださっています。
転移結晶が輝きだしました。
もう間もなく転移魔法が発動する、というところでボーグが私の視界から消えました。転移が先かルセオンの攻撃が先か、間に合わないかもしれない。そんな考えが頭を掠めた次の瞬間、ルセオンの胸を一本の矢貫いたのです。
何が起こったのか。
疑問に思ったのは私だけでなく、ルセオンもまた驚いていたようです。背後から貫かれた一撃に思わず後ろを振り返っていました。しかし、それは一瞬のことでルセオンはすぐさま転移を妨害しようと攻撃を仕掛けきました。
ですが、その攻撃が私に届くことはなかったのです。
ルセオンが背後を振り向いた瞬間、アキラ様は私のそばを離れてルセオンに向かって踏み込んでいました。
戦う前に逃げることを私に相談したはずのアキラ様が剣を振るっていたのです。ルセオンの首に筋が入ったかと思うと、そこから大量の血が噴き出しました。
「!!」
何が起きたのかと確認しようとしたとき、私の体は王城の中の転移の間に移っていました。
「アキラ様!!」
転移したのは私一人きりです。直前でルセオンに攻撃を仕掛けたアキラ様は、私のそばを離れたために一緒に転移ができなかったようです。
転移の間に私が現れたことで城の者たちが集まってきました。でも、私の心はいまだ戦場にあり続けました。
誰が矢を放ったのか。
アキラ様は無事なのか。
アキラ様はなぜあんな真似をしたのか。
アキラ様を勇者らしくないと考えたのは早計だったのかもしれません。ルセオンの攻撃よりも転移の方が早かったかもしれません。それを確かめるすべはありませんが、わかっていることはただ一つだけです。ルセオンの攻撃からアキラ様が私を守ってくださったということ。あの時、アキラ様は無謀を承知でルセオンに斬りかかっていったのですから。




