2日目 10時から11時 つかの間の休憩
グレートボアはダンジョンの魔物と違って砂にならなかったせいでちょっとだけ思うところもあったけども解体されてしまえば、旨そうな豚肉にしか見えなかった。日本で暮らしていた時だって、誰かが屠殺して食卓に並ぶ形にしているわけで、生き物を食べるということをよく考えてなかったことを少しばかり反省した。
「アキラ様、ちゃんと集中していますか?」
「あ、すまん。ちょっと意識が飛んでた」
「だから言ったじゃないですか。疲れているなら休みましょうって」
「そういうわけでもないんだがな」
グレートボアの解体を終えた後は馬車に揺られて街道を進んでいるわけだがエリノスと俺は同じ馬車で隣に座っていた。対面に座ればいいのに、エリノスはなぜか断固として俺の横に密着するほどの距離感で座りたがるのだ。
まあ、それはいいとして修行はどうしたのかといえば、さっきのグレートボア戦でレベルが上がった俺には新たなスキルが芽生えていたのだ。
『神聖術1』
これは魔力とは別の力で、神の力の片鱗を人間が使えるようになるものだそうだ。神官でもあるエリノスが使う治癒術や結界術はこの力を使っているらしく、彼女に神聖術の使い方を教えてもらっているところだったのだ。
体内にある神聖術を集中して探っているつもりが、いつの間にか生まれてくる子への食育へと思考が移っていた。生き物を殺すところから、食卓に並ぶところまでを教えたいと思うが、さすがに子供に血なまぐさいものを見せるのはどうかと思うし、どうしたものかと思考を巡らせていた。
つまり、神聖術への集中は完全に切れてしまっていた。
「アキラ様、休憩しませんか。今日は天気もいいですし風も気持ちがいいですよ」
「いや、時間がもったいない」
「そんなこと言ってさっきから全然集中できてないじゃないですか」
「それは……」
ぐうの音も出ないほどにエリノスの言う通りだった。睡眠時間が5時間程度しか取れなかったからといって集中力を欠くような働き方をしたことはない。自慢じゃないが三徹(三日間の徹夜)までなら仕事に支障をきたさない自信はある。
にもかかわらず集中できないのは、召喚されてからの一連の流れが脳のキャパを超えてしまったということだろうか。
「……一時間だけ休むことにしようか」
「またそんなことを言って……でも、とりあえずはそれでいいです。ほら、アキラ様、向こうの方を見てください。レールナーの群れですよ」
「あの、茶色いのやつ」
「茶色って……まあ、それです。角がクルクルなっているのが可愛いいですよね」
鹿っぽい見た目で角が羊みたいになっている。
女子というのはなんでも可愛いという。うちの奏でもよく口にするけど、内心同意していないことがあるのは秘密だ。
「そうだな」
当り障りのないような返事にもエリノスは嬉しそうに笑みをこぼす。
「アキラ様もそう思いますか。レールナーの角は毎年生え変わるんですけど、夏になると角のないレールナーがぽつぽつ現れ始めるんです。それもまた可愛いんですよねー。あ、それから――」
エリノスと他愛無いことを話しながら馬車はコトコトと街道を走っていった。




