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2日目 9時から10時 襲撃 

 袈裟斬りに振り下ろされる斬撃に剣を添えて受け流すと同時に一歩踏み込み、返しの刃を相手の喉元へと突きつける。

 静止画のように動きを止めたところでお互いに剣を引いた。


「さすがは勇者殿ですな。レベル差をものともしないその動き感服いたします」

「勇者はやめてくれ。それに手加減もな」

「そんなことはありまぬぞ」


 槍使いの副団長では狭い馬車の中の模擬戦には向かないということで、第二チームのホルバートに相手をしてもらっている。だが、ホルバートはどうやら接待が得意なタイプらしい。俺も接待ゴルフなんかをするときには、取引先の顔色を窺いつつ自分のスコアの調節やよいしょをしていたけども、はっきり言ってこの辺は線引きが難しいのだ。

 やり過ぎれば嫌味ともとられるし、そもそも今回のケースに至っては修行にならないからマイナスでしかない。


「第三チームの誰かに声を掛けたいところだが、いまは就寝中だよな」

「私では満足いただけませぬか」

「本気を出してくれるなら考え――」

 

 瞬間、馬車が急制動をしてバランスを崩した。


「敵襲――!!」


 見張りによって張り上げられた声に、俺とホルバートは顔を見合わせた。


「勇者殿はここで待機を」

「あほか。せっかくの実践の場に何言ってんだ」


 街道沿いでも魔物の襲撃はあると聞いていたものの、これが初めての襲撃なのだ。ダンジョンにつくまでの数少ない経験を稼げる場だとホルバートの制止も聞かずに外へと飛び出した。


 ドドドドドッと地響きを鳴らしながら馬車の左手から大型のイノシシが群れを成して突っ込んできているところだった。体高で人と同じくらいあり、鋭い牙を生やしている。重さは1トンの大台が見えそうなほど。体当たりを受ければ、馬車ごと吹きとばされそうな気配がある。


 護衛役の兵士たちが動き出すのに合わせて俺も一緒に動く。ダンジョンで湾曲させてしまった剣の代わりにあてがわれた長剣を手に、巨大イノシシに向かっていく。


「お待ちください。グレートボアはアキラ様のレベルでは――」

「ファイアボール」


 忠告を無視して走りながら練り上げた魔力で先手を放つ。足元で大きく燃え上がった炎は一頭のグレートボアの突進の勢いを弱める。炎の晴れた直後に眼前に現れた俺を見て驚いた顔をしたところに剣を振り下ろす。

 だが、グレートボアの強固な頭蓋は鋭い剣をやすやすと弾き返してきた。


「硬すぎだろうが!!」


 いまの俺の力には頭蓋骨を切り裂くほどの力はないらしい。だからといって引く理由にはならない。営業は一度断られてからが本番だという、あの手この手を使って先方をこちらの土俵に引きずり込むのだ。


「骨がだめでも肉なら斬れるだろ」


 角を突き上げてきたグレートボアの攻撃をぎりぎり回避して掬い上げるように剣を振るう。首の下、頸動脈を狙った斬撃は確かな手ごたえを返してくれる。次の瞬間、膨大な量の鮮血が喉元から零れ落ちた。

 致命の一撃でありながらもグレートボアの目はまだ死んでいなかった。首をふり上げて俺への攻撃を試みる。レベルは確かに相手の方が上なのかもしれないが、その動きはすべて見切れていた。暴れるような攻撃を躱して、よけてと繰り返したところでようやく巨体が沈黙した。

 どうやらダンジョンとは違って砂にはならないらしい。


「だ、大丈夫ですか。アキラ様」

「問題ない」


 安全が確保されて駆け寄ってきたらしいエリノスに目を向ける。ほかのグレートボアも兵士たちによって討伐されたようだ。


「無茶はしないでください。本当に、本当に心配しました。グレートボアの討伐推奨レベルは15なんです。いくらアキラ様とはいえ――」

「悪かったよ。だけど、必要なことだったんだ」

「本当にもう、アキラ様は……」


 エリノスの言葉を遮って応えると、ますます心配そうな顔に拍車がかかった。こんなところで勇者を失うわけにはいかないんだろうが、少々過保護すぎじゃないかと思う。戦わせるべき勇者をそんなに守ってどうするというのだろうか。


 グレートボアはどうやら食用に適しているらしく、兵士たちによる解体がしばらくの間続いていた。


 

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