↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/8

第5話:大好きな子

レイの修道院生活が始まった。


彼は心を固く閉ざしていて、いつも何かにおびえている。

食事に毒が盛られるのをおそれているのか、食べ物も最小限しか摂ろうとしない。ひどく痩せていて美しい顔には生気がなく、肌は色艶を欠いていた。


エルダは、レイにつきっきりで面倒を見た。

絶対に、事情を聞き出さないと決めている。……わざわざ暴く必要なんてない。このミリュレー修道院は、そういう場所だ。


「ほら。レイ、あ~ん」

エルダが食事のスプーンを近づけても、レイは口を開けてはくれない。

同じ食事を同じ食器に取り分け、毒がないと示しても警戒は解けなかった。


(うーん。困ったな……。しっかり食べて元気になってほしいんだけど)

「…………あ、そうだわ!」

ふと思い立ち、エルダはレイの手を取った。

「ねえ、レイ! 一緒にお料理してみない?」

「……?」

レイは首をかしげただけで、手を握り返そうとはしなかった。

「ふたりで材料から集めて、一緒に作って食べましょう。そのほうが安心でしょう?」

華奢な彼の手を、ゆっくり両手で包み込んでエルダは笑った。

「はちみつプディングって食べたことある? 私の大好きなお菓子なの!」


レイの手を引き、一緒にニワトリ小屋に行った。新鮮な卵を採って、ミルクに小麦粉、はちみつ、ハーブ。集めた食材を厨房に運んで、ふたりで楽しいお料理タイムだ。


「………………」

レイは無言のままだけれど、甘い香りに表情がゆるんで瞳に光が差していた。

「ふふ。かわいい」

レイはきれいで可愛くて、本当に天使みたいだ。この天使を、きらきらの笑顔にしてあげたいとエルダは思った。


蒸し上げたプディングを一緒に食べた瞬間に、レイの口元が微かにとろけた。


「ね? おいしいでしょ!」

「……うん」

「これからも、毎日一緒にお料理をしましょう。お料理だけじゃなくて、いろんなことを。きっとどれも楽しいわ」


ずっと一緒にいることが、レイにとって一番の方法に違いない。だから食事はいつも一緒で、寝るのも仕事も一緒にした。まるで子育てだ。


レイが心を開き始めたのは、修道院生活が始まって2か月目に入ったころのことだった。



「シスターは……どうしてぼくに、やさしくするの?」


レイの声は、ふるえていた。

まるで殻を割って生まれる直前のひな鳥のようだ。視線をうろうろさまよわせ、警戒心と甘えたい気持ちをない交ぜにしたような表情をしている。


エルダはレイをしっかりと抱き寄せ、背中をトン、トンとゆっくりたたきながら伝えた。


「レイが大切だからよ。……私、いつかかわいい子どもに囲まれて、一緒に笑い合ったりおいしいご飯を食べたりするのが夢だったの。温かい家庭に、ずっと憧れていた」


噓偽りない、心からの夢だった。


「私の実家はね、あまり温かい家庭じゃなかった。母が病気で亡くなるとすぐに、父は新しい女性を家に迎えてね。その女性との間には、すでに娘もいたの――私と同い年の妹が。……ごめんね、子どもに聞かせるような話題じゃないのに」


レイは目を見開いて、美しい顔をこわばらせながら聞いている。エルダは話をやめようとしたけれど、レイは続きを聞きたがった。


「いろいろ事情があって、私は家から出てシスターになったのよ」

「そんな……。シスターは、それでよかったの?」

「ええ! 今はとても幸せだもの。血はつながっていなくても、修道院のみんなが私の家族よ」


心の底から、そう思う。

実家から追い出されてむしろ良かった。

――おかげで、幸せな余生を送ることができる。

満ち足りた気分で笑っていると、瞳を揺らしながらレイが見上げてきた。


「ぼくも家族……いないんだ。シスターの家族に……ぼくも、なれる……?」

「レイはとっくに、私の家族よ」

「!」

レイはエルダに抱きついてきた。

華奢な腕で、ふるえながら強く強く抱きしめてくる。

胸に顔をうずめて泣きじゃくるレイは、今にも壊れてしまいそうだ。

――守ってあげたい。


「シスター。…………………………大好き」

「私もレイが大好きよ」

そう囁いて、エルダはレイの柔らかな髪を梳いていた。


   *


その日から、レイは笑うようになった。仕事も自分から手伝うようになり、他の子どもたちとの関わりも徐々に増えてきた。


「おーい、レイ! 今日の馬小屋のそうじ、おまえが当番だろ?」

「なに言ってるんだよ、セイジ。ぼくは先週やったよ」

「そーだっけ?」


「レイ。ブドウ畑の手が足りないんです。てつだってくれますか?」

「わかった、フェンネル。いま行く!」


他の子どもたちと一緒に過ごすレイを見て、エルダはとても安心していた。


「おや。もやし小僧も、ようやく役立つようになってきたじゃないか!」

と、マザー・グレンナも紫の瞳を細めてご満悦な様子である。


いつもは元気で子供らしく、そしてエルダと二人きりのときだけはにかみながら甘えん坊な顔を見せてくる……そんなレイが、エルダは好きでたまらない。


(このまま、いつまでも幸せな時間が続けばいいのにな……)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。