第4話:聖女、距離感バグで神様に急接近する
巨大エリンギの収穫が終わり、白銀の空間には静けさが戻っていた。
アイリスは鎧をガシャガシャ鳴らしながら、汗を拭うように胸元に手を当てていた。
その仕草が妙に女性らしくて、ジンは視線の置き場に困る。
(なんでこんな……いちいち可愛いんだよ……)
アイリスはジンの視線に気づかず、ほっと息をついた。
その息がふわりとジンの頬にかかり、ジンは思わず肩を跳ねさせる。
「ジン様……? どうかされましたか……?」
「い、いや……なんでもない……!」
アイリスは心配そうに顔を近づけてくる。
距離が近い。
近すぎる。
ジンの鼻先に、アイリスの金色の髪が触れた。
(やばい……! この距離は……!)
【心拍数の異常上昇を検知】
「異常じゃねえ!! 正常だ!!」
アイリスはさらに顔を近づけ、ジンの額に手を伸ばした。
鎧の隙間から見える白い指先が、そっとジンの額に触れる。
「熱……ありませんか……?」
「ね、熱は……ない……!」
(あるのは……お前のせいのドキドキだよ!!)
アイリスはジンの額に触れたまま、じっと見つめてくる。
その瞳は、どこか切なげで、懐かしさを含んでいた。
(……なんだ……この感じ……
アイリスの瞳……前にも……どこかで……)
ジンの胸が、じんわりと痛む。
アイリスも同じように胸元を押さえた。
鎧の隙間から見える白い指先が震えている。
(……ジン様……どうして……胸が……苦しい……?
この気持ち……なんだろう……)
【不浄な感情を検知】
「いや今のは不浄じゃない!! 純粋な感情だ!!」
アイリスは驚いて手を離し、鎧を鳴らして後ずさる。
「す、すみません……! 私……また……!」
「いや……いいんだ……」
ジンは真っ赤になりながら言った。
(……アイリス……本当に……可愛い……)
アイリスは胸元を押さえたまま、そっとジンを見つめた。
その瞳は、どこか不安げで、でも嬉しそうでもあった。
「ジン様……私……もっと……お役に立ちたいんです……
あなたのために……」
その言葉に、ジンの心臓が跳ねる。
(やめろ……そんな真っ直ぐな目で言うな……!
俺の心臓が死ぬ……!)
【不純な心拍数上昇を検知】
「不純じゃねえ!! 純粋に嬉しいだけだ!!」
アイリスは慌てて両手を振る。
「ち、違うんです!! その……私は……ジン様の……
その……創造主様の……お役に立ちたくて……!」
言いながら、アイリスはジンの袖をそっと掴んだ。
その仕草がまた可愛くて、ジンは思わず固まる。
(なんでそんな……反則みたいな動きするんだよ……!)
アイリスは袖を掴んだまま、顔を赤くして俯いた。
「……ジン様が……困っていると……胸が……痛くなるんです……
これって……変でしょうか……?」
ジンは息を呑んだ。
(……それは……変じゃない……
むしろ……俺の方が……)
言いかけた瞬間。
【不浄な接近を検知】
「お前が黙れええええ!!」
ナビエルの声が空気を破壊し、アイリスはびくっと肩を跳ねさせた。
「す、すみません!! 私……また……!」
「いや……アイリスは悪くない……
悪いのは全部ナビエルだ……!」
【不当な責任転嫁を検知】
「黙れ!!」
ジンは叫び、アイリスはくすっと笑った。
その笑顔は、今までで一番柔らかくて、温かかった。
(……ジン様……やっぱり……好き……)
アイリスは自分の胸の奥に芽生えた感情に気づかないまま、
そっとジンの隣に立った。
「ジン様……次は……どんな冒険をするんですか……?」
その声は、期待と不安と、ほんの少しの恋心が混ざっていた。
ジンはその声に胸を撃ち抜かれながら、
次のプロンプトを入力しようとして――
(……いや……この距離で入力は……無理だろ……!)
アイリスが近い。
近すぎる。
髪が触れる。
肩が触れる。
息が触れる。
【心拍数の異常上昇を検知】
「異常じゃねえ!! 正常だ!!」
こうして、
ジンとアイリスの距離は、また少しだけ縮まった。
ナビエルの妨害にも負けず、
恋の芽は確実に育ち始めていた。




