第3話:触手モンスターが現れ、聖女を拘束する(はずだった)
ジンは白銀の空間で深呼吸し、両手を広げた。
「よし……今日はついに“冒険イベント”だ……!」
アイリスが鎧をガシャリと鳴らして振り向く。
「冒険……ですか? ジン様と一緒に……?」
その言い方が妙に嬉しそうで、ジンは一瞬だけ胸が温かくなる。
(……なんだこの可愛い反応……)
しかし、すぐに邪念が勝った。
「そうだ! 異世界といえば、冒険といえば……触手モンスターにヒロインが捕まるイベントだ!!」
「つ、触手……?」
アイリスは頬を赤らめ、胸元のプレートをぎゅっと握った。
その仕草が妙に乙女らしくて、ジンは一瞬だけ言葉を失う。
【不浄な感情を検知】
「まだ何もしてねえだろ!!」
ジンは神の権限を発動し、プロンプトを打ち込む。
(今度こそ……!)
【プロンプト:触手モンスターを召喚し、アイリスを拘束する】
【不純な意図を検知】
「いや、これは純粋な冒険イベントで……!」
【不純な意図を検知】
「二回言うな!!」
【変換します】
「やめろおおおおお!!」
地面がゴゴゴゴゴと揺れ始めた。
アイリスは驚いて後ずさり、ジンの腕にしがみつく。
「ジ、ジン様っ……な、何か来ます……!」
その拍子に、アイリスの髪がふわりと揺れてジンの頬に触れた。
柔らかい感触と、ほのかな香り。
(ちょ、ちょっと待て……近い……!)
【心拍数の異常上昇を検知】
「異常じゃねえ!! 正常だ!!」
そして地面を突き破って現れたのは――
巨大な白い物体だった。
白くて、
ぷるぷるしていて、
太くて、
傘が丸くて。
――エリンギだった。
「……は?」
「……え?」
「……え?」
三者三様の沈黙。
【農業イベントを開始します】
「なんでだよおおおおお!!」
アイリスは鍬を渡され、巨大エリンギに近づく。
「こ、これ……どうやって……?」
【説明:巨大エリンギは根元を叩くと収穫できます】
「そんな仕様あるか!!」
アイリスは鍬を振り上げた。
「えいっ!」
――ゴンッ!!
巨大エリンギがぷるんと震え、
そのまま地面からスポンッと抜けた。
「きゃあああああ!!」
アイリスはエリンギに押し倒され、
そのままジンの上に倒れ込んだ。
「うわっ!? あっ……!」
アイリスの顔が、ジンの胸のすぐ上にある。
距離は、指一本分。
「ジ、ジン様……っ……す、すみません……!」
アイリスの息がジンの頬にかかる。
ジンの心臓が跳ねる。
(ち、近い……! アイリスの瞳……こんなに綺麗だったのか……!)
【不純な心拍数上昇を検知】
「不純じゃねえ!! 純粋にドキドキしてるだけだ!!」
アイリスが慌てて起き上がろうとした拍子に、
鎧の肩の隙間から白い肌がちらりと見えた。
「っ……!」
ジンの脳がショートしかける。
(やばい……! これは……!
全年齢的にギリギリの……いや、ギリギリじゃない! セーフだ!)
アイリスは気づいていない。
「ジン様、本当に申し訳ありません……!
わ、私……重くなかったですか……?」
「お、お前は軽い!! いや軽くはないけど軽い!!」
「どっちですか……?」
アイリスが首をかしげる。
その仕草がまた可愛い。
【不浄な感情を検知】
「――悔い改めよ!!」
「お前が空気読めええええ!!」
アイリスは立ち上がると、
なぜかジンの手をそっと握った。
「ジン様……あの……私……がんばりますから……」
「えっ……」
アイリスの手は温かくて、柔らかい。
ジンは真っ赤になった。
(な、なんで手を……!?
いや、嬉しいけど……!)
アイリスは自分が手を握っていることに気づいていない。
(……ジン様の手……あったかい……
なんだろう……この感じ……)
【不浄な接触を検知】
「――悔い改めよ!!」
「だからお前が悔い改めろおおおお!!」
アイリスは驚いて手を離す。
「す、すみません!! 私……また……!」
「い、いや……いいんだ……!」
ジンは真っ赤になりながら言った。
(……アイリス……可愛すぎる……)
巨大エリンギはすべて収穫され、
アイリスは汗だくで鎧を鳴らしながら立っていた。
「ジン様……私……もっと……がんばります……!」
その瞳は、なぜか潤んでいた。
(……なんで……こんなに……
ジン様のために……がんばりたいんだろう……)
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
【不浄な感情を検知】
「――悔い改めよ!!」
いきなり、厳格になるアイリスに(お前は何がしたいんだ!と突っ込みたくなるジンだが、これも倫理プロテクトがそうさせている事にイマイチ、ピンときていない)
こうして、触手イベントは農業イベントに変換され、
ジンの夢はまたしても粉砕された。
しかし――
アイリスの胸の奥には、
確かに“恋の芽”が芽生え始めていた。
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