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第6話:聖女の覚醒と隠された病


興奮冷めやらぬ王城の謁見の間。

 一人目から紛れもない「本物の勇者」が現れたのだ。

クラスメイトたちは、自分たちの身の安全が保障されたかのように

手を取り合って喜んでいる。

 国王はドカッと椅子に座り直し、

王女は頬を赤らめ、チラチラと鳴海輝を盗み見ている。


「まじかよ、異世界の王女までデレさせてるぞ。やっぱすごいわ、アイツ」


成り行きを見ていた佐藤の斜め前に立つ田淵が、感心したように呟いた。

 勉強もスポーツも万能、我が校の生徒会長。

某大手事務所のアイドルオーディションに合格したなんて噂まである鳴海は、

まさに「勇者」という言葉を具現化したような男だった。

(……さっきも率先して前に出る度胸があったしな。

あいつが勇者ってのは、納得だよな)


次に鑑定の石碑に触れたのは、鮫島翔だ。

 ピアスを何個もつけ、腕には金のブレスレット。

歩き方がオランウータンにそっくりなオラオラ系。

我が校の「汚点」とも呼べる不良である。

 石碑が光り、鮫島のスキルが浮かび上がった。

――【拳闘士】。


「はぁ? 勇者じゃねーのかよ、クソが。勇者だったら

お姫様と付き合えたのによぉ。……なあおっさん、このスキルってレアなのか?」


鮫島に詰め寄られた神官は、困惑しながら

「……三十人に一人程度の希少さだ」と返した。

国王も鮫島も露骨にガッカリしていたが、初期レベルが『20』と高かったらしく、

王はそれなりに満足げな表情を持ち直した。


「よっしゃあ! 俺が最強だぜ!」


鮫島の咆哮に、クラス一同(最強は鳴海だろ……)と心の中で突っ込む。

佐藤も呆れつつ、ふと思い出した。


(そういえばアイツ、乱闘騒ぎで退部する前はボクシング部だったっけ。

もしかすると、得意分野がスキルになるのか?)


その後、学年首位の秀才が【賢者】を発現させ、再びどよめきが起こる。

第一志望が東大と公言していた彼の結果を見て、佐藤はスキルの法則性が

「本人の資質や執着」に依存していると確信した。


次に石碑に触れたのは、少し小太りでいじられ役……もとい、愛されキャラの田淵君だ。

彼の鑑定結果は【鍛冶師】。

Web小説ではチートの定番だが、周囲の兵士たちの反応は「……裏方か」

と微妙なものだ。国王も表情を曇らせたが、本人はガーズポーズをしている。

(そういえば以前、俺が『ダイヤモンドマン』のグッズをつけてた時、

田淵君に話しかけられたっけな……)


ダイヤモンドマン。全身ダイヤのスーツを纏い、

悪党を殴りながら弱者に自分のダイヤをちぎって渡すというカオスなアメコミ作品。

映画は爆死したが、なぜか三部作まで作られたマニアックな名作だ。

会話したのは一度きりだが、趣味の合う奴との時間は楽しかった。

佐藤はあの時の田淵の笑顔を思い出して、重い腰を上げた。

(……こういうの、最後まで残るとロクなことにならなそうだよな。

そろそろ並ぶか)


列に向かおうとすると、一人の女子生徒が俺の前に入った。

 見慣れた後ろ姿。開業医の一人娘で幼馴染の加藤あやかだ。


 保健委員で誰にでも優しく、医者を目指していた彼女。

中学以降は疎遠だったが、数年前の感染症騒動の際、

出版社勤務の佐藤の母が強引に配り歩いた専門情報誌のおかげで、

加藤医院は近所の被害を最小限に食い止めることができた。

佐藤の母親はその際会社から「次やったらクビ」宣告までされていたが、

以来、親同士の仲は一層深まり、あやかもうちの母親とはよく会話しているようだった。


あやかが石碑の前に立ち、手をかざす。眩い光が溢れた。

 文字を読んだ神官が、思わず叫び声を上げる。


「この者、スキルが二つありますぞ!」


謁見の間が沸き立った。

「何っ、素晴らしい! どんなスキルだ!」

 国王が身を乗り出す。だが、神官の表情が急激に曇った。


「……いえ、失礼。読み間違いでした。ですが彼女は【聖女】。かなりのレアスキルです」


おおぉ! と兵士やクラスメイトから驚嘆の声が上がる。

だが、神官はどこか落ち着かない様子で強引に話を切り上げた。


「陛下、石碑が汚れておりますので、少々清める時間をいただきたい。

拭き終わるまでのお時間……聖女殿、別室で詳しくお伝えしたいことがあります。こちらへ」


神官はあやかの肩を抱くようにして、足早に別室へと連れ去っていく。

佐藤は無意識に、あやかから貰ったお茶のペットボトルを強く握りしめていた。

(あやかだけ別室……? 何か、おかしかったか?)


石碑が拭かれ、別の神官がこちらを向いた。

「では、次。前へ」


佐藤の番だ。

心臓が嫌な音を立てる。


(自分のスキルなんてどうでもいい。目立ちたくない。

せめて、平穏に暮らせる「普通」のスキルであってくれ――)


*


その頃、あやかを誘導する神官は冷や汗を拭っていた。

(……言えない。せっかくの【聖女】だ。あんな「欠陥」が知れれば、

即座に追放されかねん。ここは魔法で細工するしかないが……いずれ影響が出るやもしれん。

だが、聖女を捨てるには惜しすぎる……)


あやかは不安げな顔で、神官の後ろをついていくしかなかった。

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