第2話:俺と即売会
灼熱の太陽が照りつけ、見事な快晴の中。
視界の端、地平線まで続くかのような長蛇の列がそこにはあった。
列の脇では、奇抜な格好をした『スタッフ』たちが、
喉を潰さんばかりに声を張り上げている。
「ようこそ魔窟へー! 前の方に詰めてくださーい!」
「足元にゴミ落ちてませんかー! 暑さで魂が抜けてる人、落ちてませんかー!」
「歩くのが遅い人は飛んで追い抜いてください! ここは戦場です!
死ぬ気で並んでください!!」
狂気すら感じる熱気。
だが、行列からは参加者たちの笑い声があふれる。
もはや名物となった、スタッフたちによる粋な掛け声だ。
「今回のカベサー、見たか?」
「ああ……。朝一で並んだ甲斐があったな」
肩を組んで歩くのは、フードを深く被り、禍々しい杖を携えた魔導師。
隣には、全身を重厚な鎧で固めた兵士——のような格好をした男たち。
その手には、戦利品である一冊の本が、宝物のように握られていた。
昇ったばかりの太陽は、容赦なく「戦士たち」を照らし続けている。
*
人混みの間を縫うように、パンパンに膨らんだキャリーケースを引いて歩く一人の少年がいた。
重い荷物に腕の筋肉が悲鳴を上げるが、その表情には奇妙な達成感がある。
彼の視界には、多種多様な人間が入り乱れる会場の景色が映っていた。
露出度の高い、本物かと見紛うほどセクシーなサキュバス。
痛々しいほどの中二病ポーズを完璧に決めている、美形男子の魔法使い。
キラキラと輝くダイヤモンドに包まれてポーズをとる、映画ダイヤモンドマンのスーツを
完璧に作り込んだ筋肉質の外国人。
そんなコスプレイヤーたちの間を通り抜け、
紙とインクが混じり合う別棟へと向かう。
(あーあ。俺も自分のサークル、当選してたらなぁ……)
少年は漫画を描くのが好きで、いつしか自分でも創作を始めていた。
母親がとある雑誌の編集長をしているおかげで、業界の知識だけは人一倍ある。
満を持して、年に二回開催されるこの大規模なお祭りに「サークル参加」を申し込んだのだが
……結果は、落選。
今日はその腹いせに、一人の「一般参加者」として爆買いに走ったというわけだ。
彼は戦利品をキャリーバックとバックパックにしまいながら、先ほど訪れたブースを思い返す。
そこは、いつも長蛇の列に並ばないと噂される、いわゆる「壁サークル」と呼ばれる
人気の一角での出来事だった。
SNSで交流のあった憧れの神絵師に、初めて挨拶ができたのだ。
『今回は残念だったけど、来年の夏コミ、隣で一緒にどうかな?』
その言葉を思い出すだけで、天にも昇る気持ちだった。
超人気絵師で、周りには美人の売り子さんが何人も控えている、
あの売り子をされてる超人気コスプレイヤ—と付き合ってるなんて話もネットででる。
オタクたちの憧れの頂点。
(正直羨ましい。いつか、俺もあそこに……!)
妄想にふけりながら、何気なくスマホの時計に目をやった。
その瞬間、彼の顔が音を立てて青ざめた。
「……やばっ! 修学旅行の集合時間、あと三十分じゃん!!」
自由時間をすべて同人誌に捧げた代償は大きかった。
荷物を宅急便で送らないと、と思ったが、利用客が20人ほど列をなしてる。
「ここから東京駅までは…げっ!」
仕方ない、少年は戦利品でパンパンになったキャリーケースと数個の紙袋を抱え、
誇らしい顔つきで戦場から撤退する参加者たちと共に、
駅へと向かって全力で走り出した。




