二度目
長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
数々のブックマーク、誠にありがとうございます。
翌日
目覚ましの音とは信じがたい爆音で屋敷の者は目が覚めた。
実際、目覚ましの音なのだが…。
そんな音を聞いていても、さも当たり前のように過ごす者たち。
慣れとは恐ろしいものだ。
♦♦♦♦♦
朝食を食べ、アトリの見送り。
そして朱鷺の登校。
何時もの日常を過ごした後、今日の時にとっての1大イベントである《幹部たちに会う》時間となった。
この時間を今か今かと、朱鷺は待っていたのだ。
なぜなら、一度普段のアトリがどのようなのか聞いて見たかったのだ。
高等部にも、アトリの噂は伝わってくるが、所詮誰が言ったかもわからない噂。
どの情報も信憑性に欠ける。
だから一度、信頼できる幹部たちに聞いてみたかった。
その念願が、今日今からかなうのだ。
心中、ワクワクである。
「朱鷺、入るぞ。」
「はい」
山の麓に建てられている、大きくて和風の家。
山の麓のため、近辺に住宅はない。とはいっても、ここらの一帯は金糸雀家の私有地である。
三メートルぐらいの木製の門。
防犯カメラに見守られながら、敷居をくぐった。
入ってすぐには、庭がある。
朱鷺と下っ端たちが戦った場所である。
横開きの玄関を開け、アトリとともに入った。
中には、幹部たちの姿はなく、下っ端だらけだった。
その中には、朱鷺と戦った下っ端もいた。
そのすべての視線が、アトリと朱鷺に集まった。
朱鷺に対しての視線が圧倒的に多く、その視線には驚愕、戸惑い、羨望など様々な感情が入り混じった視線に朱鷺は吐き気がした。
「おい、幹部たちはどこだ?」
「は、はい!奥の幹部室にいます!」
「……。」
アトリは、教えてくれた下っ端に何も言わず、奥の幹部室へと思われる場所に向かった。
下っ端は特に気を悪くした様子はひとかけらもなく、逆に総長であるときに話しかけられたことに喜んでいるようだった。
だが、一応代わりに、と思い朱鷺はその下っ端に軽く会釈をして感謝の意を示しておいた。
それに対し、下っ端はぎこちなく会釈を返してくれる姿に、笑みが漏れた。
ようやくここで、朱鷺は初めて笑った。
なかなか来ない朱鷺をアトリはちらりと見て、ほんの数ミリ目元を下げた。のは、一瞬。
きりっとした顔にすぐ戻った。
「朱鷺。」
「はい、只今。」
朱鷺はすぐに、アトリの背後についた。
幹部室の扉は、木製と見せかけた頑丈な防音扉だ。
その扉のノブには、指紋認証が行われる装置が付いており、『久遠』の傘下の者や事前に登録してあるものしか通れないようになっている。
また、隠し防犯カメラもある。
「……?」
朱鷺は、少し鼻につくにおいに首をかしげた。
(……ああ、そういうことか。)
所々の壁には、うまく隠してあるようだが、よく見ると不自然に切り込みの入っているところが多々ある。
その、切り込みのところから『何か』が四方八方から出てくるのだろう。
その何かとは、匂いの元となるものだろう。
その匂いというのは少量ながらの鉄のにおい。
つまり、もし登録していない人がこの扉を開けようとしたら……。
考えただけでもぞわりとする。
ここの倉庫は、そこらの一般住宅よりもはるかに安全かつ安心できる。
朱鷺はその現実に、何とも言えない表情になった。
その間にも、アトリは幹部室のドアを開ける。
「…来たぞ」
「失礼します。…みなさん昨日ぶりですね。」
「こんばんは!」
「「昨日ぶり―!!」」
「こんばんはぁ」
「会い……った」
部屋はなかなかの広さがあった。内装は、黒で統一された壁とソファと小さなキッチンと本棚と壁に立てかけてある時計のみ。
必要最低限しかない分、一つ一つに金がかかっているようだった。
部屋の大半を占めているのは、三つあるソファ。
三人掛けのソファが二つと、二人掛けのソファがひとつずつ。
つまり、八人はゆうに座れる。
ソファは、机を囲うように置いてあり二人掛けの両サイドに三人掛けが置いてある配置だ。
その、三人掛けのソファには双子の羽汰と羽美と瑠偉。
その向かいにはケイ馨と唯織。
アトリは迷わず、二人掛けのソファに座った。
誰がどこに座るのかは、暗黙のルールとして決まっているのだろう。
朱鷺は、ソファに座ったアトリの左後ろに立っていた。
「朱鷺さんは座らないのですか?」
「はい、私はあくまでも主の執事という立場なので対等な立場というのは、恐れ多いことですので。」
そのかたくなな低姿勢の朱鷺を見かねたアトリは口を開いた。
「朱鷺、座れ。生憎ここには、んな堅苦しい奴なんて集まってねぇんだよ。肩の力をもっとぬけ。」
「……恐縮です」
朱鷺は静かな動作で、アトリの隣に腰かけた。遠回しなアトリの心配の声にこたえることにしたのだ。周りの幹部はとても驚いたようで目を丸くしていた。
「(あの、総長から心配する声が聞こえるなんて…)」
「「「「「幻聴?」」」」」
「てめえらぁ…。声に出てるぞ。覚悟できてるんだろうなぁ」
アトリのこめかみがぴくぴくと痙攣している。
「くすくすっ。なるほど主はお仲間に恵まれているのですね。執事として嬉しい限りです。」
「これからも、主のことをよろしくお願い致します。」
朱鷺は、ソファから立ち上がりお手本のような礼をした。その姿は、真剣そのもの。
「はい!こちらこそです。かなり俺様なアトリですけど、私たちの総長であり、仲間です。ありがたくよろしくさせて頂きますよ。」
馨がそういうと、幹部たちはそろって頷いた。
アトリはそっぽを向いて何も言わない。けれど、少し耳が赤いのはあえて言わないようにしよう。
♦♦♦♦♦
約二時間後
これまでの幹部との会話をざっとまとめると時と幹部同士が呼び捨てで呼び合うようになった。
どういうわけか、経緯はよくわからないが、自然とそうなっていた。だが、依然としてアトリのことは名前で呼ばない。
会話が落ち着いた時、でアトリがいきなり真剣な面持ちで話を切り出した。
「馨最近、どうだ?」
空気が、ピンッと張り詰めた。
「それが、なかなか手ごわいんですよ。どうにも、決定的な証拠が見つからないように細工がしてあるようで…。」
馨は悔しさをにじませるように、拳を握り締めた。
「失礼ながら、もしかして『スカル』のことですか?」
「っ……何故それを!?」
そう朱鷺が言うと馨がひどく吃驚していたが、アトリはどこか納得したような声を漏らした。
「あー、、そういえばお前アレやってたな。」
「えぇ。それなりの情報は持っていると思いますが…。」
「「ええー!!何で知ってるのー!馨ちゃんでも分からなかったのにー。」
「それは…。」
朱鷺は、困惑気味にアトリを見た。
この先のことを言ってもいいのか、朱鷺一人の判断ではしきれないからだ。




