㉗媛鉄三宮駅「帰り路」
㉗媛鉄三宮駅
「ねぇ. さっき美波ちゃんなんていった?」
桜ちゃんが聞いてきた.
「え?意味わからずに笑ってたの?」
「うん.いまいち聞きとれなかったけど,美波ちゃんが叫ぶことないからその姿が面白くて.」
「あーね. わかるわかる.」
美波が叫ぶのは今まで聞いたことがなかったな.
「で,なんて?」
「なんだっけ. あ!『京都は台地だったよ~!』って」
「え? 台地だったの? それじゃあ最初に言ったのと同じじゃん」
「あれ? じゃあなんだったんだろう…」
「綾奈ちゃんも聞き取れてないじゃん…」
「いやぁ~.おかしいなぁ.」
「でもなんだろうね」
結局美波の叫びについては謎のままだった.
今度会ったら聞いてみよう.
しかしこの座席快適だな~
リクライニングもきくし,足元も広い.
小さいときに岡山旅行で特急のグリーン車に乗ったけど
そのときみたいな感じだな.
「綾奈ちゃん. これどこで地上に出るの?なんか退屈.」
媛鉄は西宮を出てからずっと地下を走っている.
「あ~. 桜川が何か言っていた… あ,なんだっけ~」
桜川と美波の再会感動秘話絡みだったのに…
どこだっけ… た. そう『た』から始まっていた
なんだっけ…
すると通過した駅の看板が読めた.動体視力万歳!
しおやえき. その下に見えたのはたるみという文字.
「見えた!桜ちゃん. 垂水って言う駅だよ」
「え? 見えたって…. オカルトは勘弁して…」
「今通過した駅の看板にあった.次だよ.」
「え? 次の駅舞子だって..」
「うそだぁ」
「いや本当よ. 前の電光掲示板見て?」
「ほんとだ舞子だ」
「ほらね.垂水ってどこww」
そう桜ちゃんが笑った瞬間窓の外が一気に明るくなった.
電車は坂を登っている.
桜ちゃんは嬉しそうに外の景色を眺めている.
おかしいな… たしか垂水だと思ったんだけどな…
『この電車は快速特急松山行きです. 途中の停車駅は洲本,徳島,阿波…』
…わかった. そういうことか!
「わかったよ桜ちゃん.」
「え? なにが?」
「この電車. 特急なんだよ. だから次の停車駅は舞子でも.次の駅は垂水なんだよ」
綾の動体視力に狂い無し.
「へぇ~.そんなことより橋からの景色綺麗だよ」
「わ-. 本当に綺麗… って」
おい! 全く関心なしか!
せっかく思い出したっていうのに!
もう…
でも瀬戸内海の景色は本当に綺麗だった.
あっという間に橋を通り過ぎて淡路島に入ってしまったけど.
「いい景色を見たところでお昼にしようよ」
「いいね.」
鞄から桜川の作ってくれたお弁当を取り出す.
いかにも田舎のおばあちゃんが作ってくれたようなお弁当は
いい雰囲気をかもし出していた. 旅って言う感じだね.
一口かじると懐かしい味が口に広がった.美味しい.
「桜川もなかなかやるね」
「やっぱりアナログ系やね.」
「ほんとうにね. 携帯電話ぐらい買えばいいのに」
「でも携帯を持つ桜川はもはや桜川じゃないよね」
「わかる気がする っていうか,お弁当と携帯電話の関連性は?」
「ない.」
桜川はこの先もずっとアナログのままでいてほしい.
綾が高校のときに想っていた桜川のまま.
美波と付き合ったら変わるんだろうか.
今頃2人は何をしているだろう.
楽しくお茶でもしているのかな.
そう考えていたら綾も航太に会いたくなってきた.
松山に帰ったら何しようかな.
「綾奈ちゃんどうしたの? めっちゃ顔が笑ってるよ」
「うそ!」
「ほんと. なんか嬉しいことでも思い出した?」
「いや別に.」
そんな顔に出るほど笑っていたのかな…
「高校のときのこと?」
「だまって」
「わー耳が超赤い! 図星か!私にも『見える』」
桜ちゃんは変なところで勘がいい.
「おいしかった. ごちそうさまっ!」
二人ともぺろりと桜川弁当をたいらげた.
「このおいしさ,綾奈ちゃんに迫るものだよ」
「ううっ.桜川に追いつかれたくないな」
「庶民の味と高級な味という違いがあるから大丈夫だよ」
「なんだそれ?」
桜ちゃんがトイレに席を立った後,電車が再び橋を渡った.
2回目の瀬戸内海だ.
綺麗だなぁ~.
ぼーっとしていたら後ろから軽く叩かれた.
「なにたそがれてんの?」
「あ,おかえり.海がきれいだなと思って.」
「え? 山だけど!?」
再び外に眼をやると緑しか見えなかった.
『Next station is Tokushima. The doors left side will open.』
「あ! もしかして.橋,過ぎちゃった?」
「桜ちゃんすごいね英語の放送でわかるなんて」
「…その前の日本語でわかったんだよ」
2回目の瀬戸内海を見逃した桜ちゃんはとても残念そうだった.
とりとめのない話をしていたらあっという間に新居浜駅に着いて,
桜ちゃんは降りていった.
隣の座席が空いて少し寂しい.
新居浜の次はもう松山.
隣に人が乗ってくることはない.
綾は桜ちゃんの座っていた座席に荷物を置いて枕にした.
別にリクライニングが利くからそんなことしなくてもいいけど
気分的に座席を倒すよりもこうしたほうがいい.
松山についたらもう日は傾きかけていた.
地下から出て松山城を背にスクランブル交差点をわたる.
大街道をぶらつきながら一人で歩く.
4人で過ごした時間が夢みたい.
今までで一番楽しい数日間だったな.
市駅に着くとまぶしい夕焼けが市内電車を照らしている.
綾は唯一残っている旧塗装の市内電車に乗り込んだ.




