『新者の横道』【2】
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「振るの、疲れたっ!」
とうとう邪魔臭くなったのか、クレナイはバスターソードを放り捨てた。
「いや、そんな理由で武器放り捨てんなよ。」
普通、武器を捨てるというのは気持ち的にそれほど簡単に思い切れない判断である。ただし、自分に合わないと感じたクレナイはあっさりとしていた。これが練習以前の喧嘩程度の内容であったのもあっただろう。
そして、武器を放り捨ててから再び状況が変化しだしたのも、確かであった。
『ズスッ』という防具を掠った軽い音が聞こえたのだ。
「おうっと。」
これまた読みきったと思っていただけにジソウは脇腹に軽い衝撃を受け、驚く。
バスターソードを手放すと共に、急にクレナイの動きが軽くなり、そして速くなっていたのだ。
その『一撃当ててやる』という執念が実り、ジソウの脇腹にクレナイの一撃が掠ることとなったのは偶然である。だから、まだ遠いなぁとクレナイは内心舌打ちをする。この程度では納得はいかない。だが、届かないのがちょっと楽しくなっている。
一方、自分が慢心していたことに気がつき、調子に乗っていたことを恥じたジソウは心持ち新たにクレナイの一挙手一投足に目を配らせるようにする。
……かと思えば、舌の根も乾かぬうちに、今の攻撃は自分のHPを減らしたのかどうかが気になってしまった。
小憎たらしいまでに余裕がある男である。
一応、しっかりとジソウは蹴りを見極めて避けた上で、片隅のHPを確認している。決して、余裕があるだけで油断しているわけではないので許してあげて欲しい。
クレナイの動きを目の端に置きつつ目を凝らすジソウ――どうやら、HPに変動は見られなかったようだ。今のところ、正確な判断はつかないがこの程度ではダメージが発生しないものと判断した。
じゃあ何処でその判断が下されるのかという所に興味が向く。
……いやいや駄目だ。クレナイにそんな目的でわざと攻撃を受けるなんて失礼だろ。そんな今までの経緯を吹っ飛ばしてそう考える彼は、保留にすることにした。変なところで武人気質であった。
と、そんな上目線に立っていられないような一撃。足を狙った水面蹴りが、バランスを崩したように見せかけて、姿勢を低くしていた彼女から放たれた。器用なものである。
真っ正直にただ手足を振るうのでは当たらないと気がついた彼女の試行錯誤の一手だ。
しかし、これまたクレナイの見せ掛けに気がついていた彼は、クレナイの肩に手を着いて跳び箱の要領で飛び越した。
「おっと。」
「あ、たらないーっ!」
悲鳴のような、苛立ちというよりはむしろ楽しそうな叫びを上げるクレナイ。
ちなみに、相良、今のはマゾっぽいなと思った矢先に、リミカがタイミングよく話しかけてきたことでなんとなく焦ってしまったのだが、まぁ、意味のないことである。
親友がそんな動揺をしているとは気がつかないジソウはジソウで、違うところで動揺していた。良い一撃。布石を置いた行動であったのは確かで、ジソウはほんの数手で自分が回避に力を入れざるを得ない状態にさせられたことに感心したのだが、感心したのだが、
――っうおい、感心ってなんだよ。自分すごいって言ってる感じがしてやだな、今のは。相良のじっさんに教えてもらっていたからで、相良の稽古に付き合ったことあるし、決して驕っている訳では……いやでも、それなりに回避には自信が多少あるけど。いやでもだからって今のは流石に厨二みたいじゃん!
と、今度は自問自答で今更ながらな内容で百面相を始めていた。さきほど気持ちを新たにしたばかりなのにこの様である。小憎たらしいのはそれでもきちっと回避しているところだ。この男、まだまだ余裕である。
だがそんな時間もすぐに終わることとなった。タイムリミットだ。無尽蔵ではないスタミナが切れ、くるくる踊るように蹴ったり殴ったり切りつけたりしていたクレナイは、とうとうその動きを止めざるをえない。
ちょっと不自然なほどにガクッと肩が落ち、両膝に手を当てたかと思うと、肩を震わせて荒く呼吸をしだした。
スタミナの限界値を割るとこの状態に強制的に移行されるようになっている。
「あー、そっか。スタミナ切れか。大丈夫かー?」
「はあっ、はぁっ。はあっ、はぁっ。」
どうやらその体勢から動けないようだ。無視をしているわけではなく、よくみると頭を縦に揺らして頷いているのが分かった。
ジソウ・相良・リミカは説明書に書いてあるのを見て知識では知っていたが実物を見るのは始めてである。カタイガニ狩りを途中で切り上げたのは正解だったかもしれない。不自然で、急激な停止動作だったので多少なり動揺した。
……ああ、これは拙い。隙がどうのこうのじゃないな。気をつけよう。相良は彼女の状態を見て戦略的な目線でそう思った。
リミカは心配したが、駆け寄るべきか否かでおろおろしている。
ジソウも一応、再び声をかけるべきかどうか否かで迷ったが、冷静な部分で、彼女が長い間動けたのはアーツに文面以外の補助があるのかもしれないなどと、軽く考察もしていた。
――大丈夫だと分かっている上での彼らであって、決して薄情というわけではないのでそれとなくここに記載しておきたい。むしろ、クレナイの自業自得な所もあるので……ああ、いや、それぞれの暴挙を容認できている彼らが一般とずれた思考をしているのは否めないのだが。
「――はぁはぁ。ふぅー。ごめんもう大丈夫。くっそー、君、素早過ぎ。当たんないじゃん。武術はかじっただけとか嘘でしょ。」
「いやいや、ほんと、お触り程度っす(相良家基準だけど。)。つーか、正直完全回避余裕でした。って言いたかったのはこっちなんだが。何度か擦られてちょっと悔しいんだが。」
「そうなの? ……うーん。じゃあいいや。」
声をかけなくても特に気にすることはなかったようで、復活したクレナイは随分サッパリしていた。そして少し何かを考えるように視線を彷徨わせていたかと思うと、やや疲労感はみえるが満足したような笑顔になった。少々気になる言葉があるが悔しいならいいか。そう結論をつけたのだろう。ジソウも特にどうのこうの言うつもりはない。煽ったのは事実なのだ。
ただし、クレナイの残念さの抜けた爽やかな美人の笑顔に対面にいた彼はドキッとした。チョロイジソウ、略してチョロジは、それを誤魔化すべくいつも通りを意識する。若干硬くなっているのはご愛嬌だろう。
こ、こ、この程度、なんでもないんだからね! 誰とも無く心の中で弁明する。この美形ばかりの世界、彼には毒かもしれない。
「ま、まあ、いいでしょ。お互い実力は分かったっしょ。……そういうことで、武器の相談は俺が後で乗ってやるから、ネタで最強人種一緒に目指そうやないか!」
「ちゃうねん。ネタじゃなくて、本気なんよ! うち、戦える踊り子目指したんねん!」
「対応力たけぇなあ、おいっ。」
ちょっと呆れつつ、クレナイの額に手の甲をベシッと打ち付けるツッコミを入れたジソウ。焦っていたのがバカらしく思え、硬さは取れていた。
手の下から「ぬわっ。」という女性らしからぬ呻き声が聞こえたのもある。
その声の主である彼女の口元は笑みでニヤニヤと歪んでおり、色々と台無しにしかねなかったのだが、額を押さえる形で隠していたので問題はない。ちょっとこのツッコミが嬉しかったようだ。
「って、それはおいといて。昨日言ったアーツ、買ったみたいだな。」
「軽っ!」
「もうそれはいいから。」
「……はぁ。うん、ちゃんと買ったよ。『体術』と『蹴り』と『素手』でしょ。つか、お金もらっといて買わないわけ無いでしょうに。」
そう、クレナイはコリンクのアーツ屋でアーツを三つほどジソウの薦めるままに購入していたのである。お金はパーティーの共同資金としてカンパした。全員の同意の上である。
クレナイは完全に息が整ったようだ。癖というか習慣というか、言いながら、運動後特有の火照りは感じないはずだがパタパタと顔を手の平で仰いでいる。
「いや、一応、納得してくれていたけど、勝手に人の構成に口出ししてるしな。」
「今更に繊細か! 大丈夫。もともと私が戦える踊り子を目指してるっていったんだもの。昨日も言ったけど、むしろ案をもらえて助かったよー? ありがと。」
顔を仰いでいた手を今度はヒラヒラとジソウへと振ってずいぶん軽く返答をする。彼女なりの照れ隠しなのかもしれない。
「そう? んーなら、いっか。そも踊りって、有名なのは剣舞とかかな、武術なんさ。もろもろ知識であったからにゃあ助言するでしょう。してしまうでしょう。」
「ああ。舞に型を組み込んだ物は多く有る。武術を弾圧されていたりし……」
「相良ありがとう。詳しくは別にいいから、な?」
「む、そうか? ふむ。しかし、さっき見た感じでは、殴ったり蹴ったりが妙に上手い。これがアシストか実力かは分からんが、バスターソード以外は問題なさそうだな。」
さりげなく毒を吐く相良にクレナイは苦笑する。
「問題なくはないけど、まあいいわ。うーん。私もそこはちょっと分からないなぁ。実力とかそもそも喧嘩とかした事ないから自分でも判別つかないしね。」
クレナイは腕を組んで過去の自分を思い出して考えてはみたが、特に自分の格闘センスっていうものを感じられる出来事は出てこない。運動はそんなに苦手ということは無いのだが、決定打ではないはずだ。
そんな、彼女の言葉を聞きつつ、ジソウと相良は先ほどの光景を思い出しては、それぞれイメージを膨らませていた。
「踊り子というよりは、構成的には闘士だな。だが、敵を打倒するには変わりない。発想は俺も面白いと思う。初めはただ殴ったり蹴ったり切ったりと普通の戦い方になってしまうかもしれないが、クレナイの言う『戦う踊り子』というのが『魅せる戦い』を意味するならば、慣れてきて多角的な攻撃手段で流れを作ることが出来るようになれば、化けるかもしれない、な。」
と、顎に手を当て、彼女の完成形を饒舌に話す相良。大分クレナイに高評価である。よほど身のこなしに期待できるものを感じたようだ。
一方、隣のリミカはへー、なるほどー。と頷いていたが、分かったのか分かってないのか、少しアホの子の様な反応だ。恐らくよく分かってない。彼らのような戦闘民族ではないので深く考える事は止めたようである。
「上手くはまりそうだな。」
「うん。テンプレでいくより、やりたいようにやる方がいいよ、ね。まさか、ここまで支援してくれるとは思わなかったけど。これで役立たずになったらどうしようか心配だわー。」
眉尻を下げてそう嘆くクレナイに、リミカは大丈夫ですよと励ます。
「私なんか、全然上手く戦えないですけど、このお二方がいればカタイガニも杖で倒せました!」
グッと両手を握ってニコッと笑うリミカ。天使がそこにいた。
うん、ちょっとそういうことじゃないんだけどね? と苦笑しつつ、クレナイはほんとにこの子可愛いなあと癒される。フローラルなマイナスイオンか何かが出ているのではないだろうか。
「そうそう。そんな気にすんなよ。相良の御墨付きだし。もともとネタなパーティーだろ? 上手くやりくりして楽しもうぜ! メイン盾いないから。勝るか分からんけど。」
「この攻撃特化構成がどう転ぶかはやってみないとどうにも、な。」
「ふっはははは。押せ押せだぜ。」
ジソウはそう言いながら相良に向かってシャドウボクシングを始める。何も考えていない行動であり、決して、場を和ませようとか考えていないが、バカで空気は緩んだ。
だが、相良が無反応で、さらにダメージにならないからと調子に乗ってポスポス数発、拳をぶつけていると、唐突に左右から相良の大きな手が飛来し、油断していたジソウの拳を『掴み』捕った。
全くここで反撃されるとは思ってなかったジソウは、驚きで肩を思いっきり震わせ、「ヒッ」と短い悲鳴をこぼす。
その反応に相良の口元が微かに笑みで歪んだ、かどうか確認できた者はいなかったが、相良はギリギリと万力の如く握りこんだ。
「え? アレ……って、痛い、痛い、痛いっ?!」
と、ジソウは何とか逃げようとするが、コイツカラハニゲラレナイ。
腕を引いたり振り払おうとしたり何とかしてこの痛みから逃れようとするが、ダメであった。
HPを確認してみれば、微量ずつながら減少しているのが分かった。BDの恐怖がここにフル再現! そんなアホな言葉が脳裏をよぎる。
「離してくれないでしょうか?」と上目遣いでジソウは思念を送っていたが見事に無視された。当たり前だ。男からそんなもの受けても微塵も心は動かない。これは相良だからということは無いであろう。いや、ちょっと気持ち悪さで頬が引き攣っていたような気がする。
そんな、ジソウが奇声を上げて悶えていると、隣から笑い声が聞こえてきた。
「くっ、あはははっ。バカじゃないの。もう。まあ、ありがとう。じゃあ、遠慮なくいかせてもらうよ!」
クレナイは自分が使えないかどうか、このパーティーでは本気で意味が無いのだという事が理解できたので、それで良しとした。忘れるのだ、そんなことは。言い聞かせる。
彼女の目には目の前の攻防がただの『じゃれ愛』にしか見えなかったのだろう。相良はともかくジソウはかなり本気なのだが、笑いは取れた。そして相良の『掴み』も取れた。
「どうぞどうぞ。戻ってこなくて良いからね!」
「何それ怖い。」
「こう、転げ落ちていく感じでゴロゴロと。」
「達人道か!」
相良の拳破壊から解放されたジソウは手振り身振りで茶化し、それにクレナイは突っ込む。二人の遣り取りを前にハッとしたリミカはここだと思った。
「達人とはなるものではなく、落ちていくもの、ですわ。」
「「「リミカさんっ!?」」」
予想外の人物からの合いの手に驚くリミカ除く三人。
その三人の反応に対して安堵しつつ、「知ってますよー。」とちょっと得意げにニコニコするリミカであった。
そんなリミカの意外な守備範囲に驚いたジソウだったが、元ネタの話をする彼らを横目に、軽く体を伸ばして少し間を置く。少し盛り上がっているのが気になるが、コレ幸いと、これからの行動をちゃちゃっと考えることにした。
「――よし。じゃあクレナイはそういう方向で装備を用意。相良とリミカは二人で旅支度お願い。時間は一時間後ここ集合でいいかな?」
「ああ、いいんじゃないか。」
「大丈夫です。」
影で不満そうな顔をしている者が約一名いたが無視した。
「鑑定能力、俺だけしかないのは痛いけど、ポーションとか消耗品はそこまで性能差無いし、大丈夫でしょ。ただ、考えうる最高を頼む。」
「はい。がんばります!」
「ああ。任せろ。」
「……そんなに気負うほど?」
真剣な表情で頷く相良とリミカに対して、何故そんなに真剣なのかと疑問を浮かべるクレナイ。
「ジソウに聞け。こいつが原因だ。」
「そんな、原因って。」
「ふふふ。ジソウさん、ですから。では、早く準備しちゃいましょう。相良さん、まずは薬屋さんです!」
「おう。」
ジソウが否定する暇も無く、含みのある言葉を残してリミカは相良を連れ立って行ってしまった。相良も良い返事である。
「あれー?」
リミカからの先ほどの対応にジソウの心に隙間風が通った。ちょっといじけてしまいたくなった。
「かなーしーみのー」
「なんか、歌いだしたよ……」
クレナイは急に歌いだした奇特な男、ジソウが右腕に着けている、赤い宝石がキラリと光る『腕力強化の腕輪』をチラリと見て、これが関係するのだろうな考えた。
……こんな序盤で持つようなもの、なんでもってんのよ。
「ほら、私たちも行こうっ。」
だから、彼をフォローする言葉は見つからない。それに、兎にも角にも、彼女は『新者の横道』に早く行きたいのだ。ただただ先を促した。
かきどころがなかったので。
△△△△△
所有者:クレナイ
アーツマテリアル枠:8
片手剣の心得Lv8 蹴りLv1 素手Lv1 体術Lv1 ダンスLv12 ステップLv12 ジャンプLv10 身体強化Lv8
予備: 小盾の心得Lv5
△△△△△




