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魔術師の閉鎖試験  作者: あしべ
1章
26/35

『新者の横道』【1】

すみません遅くなりました。もう、ビックリするぐらい。


 コリンクのアーツマテリアルショップを後にしたジソウ達は旅支度をするため再び『新者の横道』に来ていた。

 前回とは異なり、ちらほらと個人なのかパーティーなのかは判別付かないがプレイヤーの姿がそれなりに見受けられる。

 それほど狭い通りではないし、興味を持って街を歩けば見つけることは難しくない場所なのでこれからその数はどんどん増えていくだろう。

 ただ、画一の品質で量をそろえる事には向かないことから、これから利用客が増えるといっても攻略組と呼ばれるような、効率を求めるものには適していないので高が知れている。ただし、掘り出し物があるので全く人がいなくなるということも無い。

 『新者の横道』へ向かう道中、この場所を知らなかったクレナイに対して、ジソウはそこについて軽く説明した後、今後の彼女のプレイスタイルについても話そうと思っていたのだが、彼女が予想外の食いつきを見せたことでそれは変更せざるを得なかった。それなりに目的地まで距離はあったはずなのだが、それはもう根掘り葉掘り、目をキラキラさせて、ジソウたちの見たことをそっくり聞きだそうとするクレナイを遮る事が出来なかったせいだ。

 そんな感じで興奮気味のクレナイの質問という名の尋問タイムは実物を目の前にするまで続いた。彼女は周りが狼狽えるほどの勢いで聞くだけあって、目的地に着くやいなや、飛び出した。そのときの彼女は良い笑顔だったとだけ伝えておこう。

 しかし、その動きに、素早く相良が反応していた。不意打ちは彼には意味がないのだ。通常運転で何よりである。

 ただそのおかげで、相良はクレナイの首根っこを『掴む』ことに成功していた。

 どんだけ好きなんだよ。ジソウは呆れるが、化けの皮がどんどん剥がれていくクレナイが面白くてしょうがないのも真実である。


「離して相良君。目の前に宝の山が!」

「クレナイさん、活き活きしてますね。」

「っ、こらこらこら。」


 流石のリミカも苦笑いである。いやそれだけなのが逆に大物である証か。

 抑えている相良としてはまだそれほどアーツが育っていなかったことで、意外と筋力が拮抗していたのか、予想していたより維持が大変そうだ。


「近いけど遠い。あぁ、なんてこと。手を伸ばせば届く距離なのに……」


 エサを前にぶら下げられながらも強制ステイ状態で悲劇のヒロインを気取るクレナイは、まぁお分かりの通り、バザーやフリーマーケットといった類が大好きなのだ。それで済むのかと言われるかもしれないが、『大』好き、なのである。

 リアルでは都内で行われる大規模なものから小規模なものはもちろん。地元の小さなものにも足を運ぶ程だ。

 よって、初日に見た、この町の噴水前広場で風呂敷を広げて物を売る光景はやばかったらしい。どうやばいのかは彼女のみ知る。

 とにかく、毎日がスペシャルなのである。

 ただ、資金が乏しいので散財しては危ういと考えることは出来た。逸る気持ちを必至に抑えて近寄っていなかった。我慢をしていたのである。目の前に広がるRPGの世界が抑止力にもなっていたのではあるが。

 だが、彼女は来てしまった。しかも、買い物が目的で。

 安く、そして良い物を探してみせる! もの凄い意気込みであった。

 クレナイの、『ねぇ、早く行きたいんだけど! ねぇ! ねぇ!』という訴えが聞こえてくるような視線を浴びせられ、少し気圧されるジソウ。いかんせん、それを今すぐ許可は出来ない。彼女についてのお話があるのだから。


「クレナイは少し落ち着けって。とりあえず諸々確認するから。そしたら買い物行くか……そんな目すんな。」

「えー!」

「えー言わない。んじゃ、まずはポジションな。クレナイは前衛でいいんだよな。相良も前衛。俺は中・後衛で、リミカが後衛、と。」


 指折り確認するジソウとそれに頷く面々。一部もとい一人はふてぶてしい態度だが、放って置く。


「一見するとバランスはいいな。」

「ま、な。蓋を開ければ、奇人前衛剣士に、中・後衛のなんちゃって斥候、補助特化魔法美少女だけど。」

「奇人言うな。」

「……美少女って、もういいですぅ、それで。」


 相良はボソッとそう返し、綺麗な人なんて他にもいるじゃないですか、と諦めつつ頬を膨らましていじけるリミカ。そんな反応が面白いがために弄られるのである事にてんで気がつかない。それがリミカだ。

 そしてその方面で弄ってもあまり面白くない残念美人なクレナイ。


「なんか、カチンと来る思念、が?」

「何、クレナイ毒電波でも受信した?」

「いや、毒電波って何よ。たぶん気のせい。」

「……まあいいか。んで、新たに加わったのはバスターソードの踊り子、と。」

「って、だから、バスターソードは間違いだって! 序盤はこれがいいって知恵袋で言われたから選んだだけなの!」


 踊り子については否定しない。つまりそういう事だ。

 情熱的な赤髪と褐色の肌に力強い切れ長の目。くびれた腰と引き締まった腹筋。そして抜群のスタイルのよさ。退廃的な美を放つこのダークエルフにはダンサーや踊り子という存在に魅力的なパーツをこれでもかと揃えている。

 ……であるのだが、今のクレナイ、抜き身のバスターソードを取り出してはそれに指を刺して怒鳴る姿は、やはり残念であった。


「もー! 昨日からバスターソード、バスターソードって、うっさいわねっ!」


 ブオンッと件のバスターソードを片手で頭上まで持ち上げて怒鳴るので注目を浴びることになるクレナイは、悲しいかな、自らの行いでもって周囲の人々へ喧伝することになった。酷い自滅である。


「あうう、周りの視線がー。」


 そんな彼女の様子を見て、街中で刃物取り出すのはやめて欲しいと常識人リミカは思うのである。入り口付近で話していた所為で、結構な視線が集まってきているし、周囲の視線は明らかに生暖かい。プレイヤーはもちろんだが、売り子をしている彼らNPAの視線も気になる。中に人が居ないとはいえ、彼女は既に彼らを一人の人間と見なしているので、どうしても意識してしまい、割り切れない。


「あはは、ごめんって。わざとだから許してっ。ふくくっ。」

「こ、こいつぅ!」


 もちろん、リミカの思いが届く事はなく、小馬鹿にしたような表情で笑うジソウは、その代償にクレナイによって物理的に攻撃される。のだが、平然と余裕を持って回避した。


「あ、あれ。」

「ふふん。」


 まあこれで許してやるかと思い、口より先に軽く放ったジャブは威力はほとんどないものの不意打ちでもあるし、確かに当たる筈だった。

 だが、簡単に避けられてしまった。また、避けられただけならまだしも、ジソウは小憎たらしく鼻で笑うものだから彼女に変なスイッチが入ってしまった。


「こんにゃろ、絶対に当ててやる!」


 女性の口から出たとは思えない物騒な言葉と共に続けざまにクレナイは前蹴り、中段回し蹴り、半回転のローリングソバットとテンポよく繋げていった。

 しかし、ギリギリ当たらない距離で回避される。

 バランス感覚が良いのか、難しい繋ぎを難無くこなし、蹴り技を放つクレナイは格闘技経験が無いというのにスムーズに動かせている。

 であるのに避けられるという事は、つまり彼に見切られているのだ。


「うむ、良い蹴りだな。」


 端から見ていた相良はボソリとそう評価する。しかし、その反面考える。

アーツにはダメージ補正としか書かれてなかったはずなのだがなぁ……と。


「おっ、とっ、とぅ!」


 そう考察する相良の一方で、ジソウに軽い掛け声と共に回避をされ続けたクレナイはどんどん意地になっていく。もう暴走機関車のごとくである。

 自分でもビックリするほどテレビで観る格闘家のような動きが出来ているというのに届かない。これはもうどう口で表していいのかクレナイには思いつかなかった。非常にもどかしい。

 絶対に当ててやるんだ。いつの間にか目的は変わっていた。

 止め時を失ったクレナイは遮二無二なって攻撃を続けた。思わずバスターソードで攻撃してしまう位に。だがそれもあまり効果はなかった。むしろ、蹴りや拳だけの時と比べて、バランスが悪くなってしまい、遠ざかった気がする。さりとて、武器というものは魅力的なので、あれば使ってしまう。

 周囲は武器の使用という穏やかではない光景に少しざわめいた。


「もうちょっと、何か、反応しなさい、よっ!」

「わー、やめて、くれー。」

「こ、こいつ~っ!」


 スタミナが順調に減っているのを感じたクレナイは焦りから溜まらず、そう叫んだ。

 こういう状況で火に油を注ぐのが大好きなジソウはそれに対して、棒読みで返答する。

 そして周囲は心配するのをやめた。心配するだけ損であると気がついたのだ。賢明である。

 彼女の攻撃が激化したのは言うまでも無い。


「もー。二人ともやめてください!」


 リミカはそう叫ぶが、意地になっているクレナイは止めないし、楽しんでいるジソウは無視をする。

 むむむっと唸ってから、リミカは隣に立つ大男に助けを求める事にした。


「相良さん、止めてくださいよぉ。恥ずかしいですって。」

「……放っておこう。」


 『危ないから』という理由じゃなくなったのは彼女の進歩なのかどうか不安に思いつつも、相良は触らぬ神になんとやらとばかりに、少し離れたところにある植え込みに腰を下ろすことにした。


「そんなぁ。」


 リミカは彼の予想外な言葉に肩を落とす。さすがに突貫する勇気はないので、言葉が届かないのだからお手上げ状態だ。


「まあ、座ろう。」


 どっこいしょと腰を落ち着けた彼は、そう言ってリミカを隣に座るよう促してから、クレナイの動きを再び観察することにした。なかなか、カンフー映画みたいな大きな動きなので面白いのだ。徐々に攻撃の精度が良くなっているところも相良的にはグッドである。

 ――リミカはなにやら言いたい事があったようだが相良の隣とジソウとクレナイの二人に何度か視線を彷徨わせた後、一つため息を吐くと座ることにした。



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