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魔術師の閉鎖試験  作者: あしべ
1章
25/35

コリンクのアーツ販売店



「こんちゃーす。」

「はーい。いらっしゃい。」


 四人はコリンクのアーツマテリアル販売店に着くと都合よくプレイヤーは一人もいない様であった。

といっても、朝の九時という開店時間と同時に来ていたので当たり前かもしれない。昨日も夜遅くまでの宴であったのだし、精力的な攻略組も今日は寝坊しているのだろう。

 そういうわけでジソウたちは気兼ねなくカウンターを占領する。


「おお、君たちか。ん? 一人増えている、よな?」


 彼はジソウ達の事をしっかりと覚えていたようだ。人相というのがイマイチ把握しにくいがニコニコしている雰囲気は分かる。

 彼はジソウの後ろにいたクレナイのことにも気が付いた。記憶力良いなとジソウは感心した。


「昨日うちの仲間になったクレナイさんです。」

「はじめまして。クレナイです。」

「おう、はじめまして。アーツ販売店、店主のコリンクだ。」


 クレナイが頭を下げると、コリンクも頭を下げる。

 ジソウはふと、なぜはじめましてなのかと疑問に思う。アーツマテリアルはこのお店以外では今のところ手に入れられないはずであるからには一度は会っているはず。記憶力良い説に早くも罅が入った。


「あれ、クレナイもアーツここで買っているよな?」

「うん。そうだね。ま、私はこのカウンター隣にいたエルフの女性だったよ。」

「え?」

「でも、そもそも客のことなんていちいち覚えてないでしょ普通。ただ君達はクエスト受けていたからしっかり覚えていたんじゃないの?」

「いや、そうじゃなくって、エルフの店員さん?」


 そんなのいたっけとジソウは首を傾げる。


「ああ、君が来たときはまだ出勤してきていなかったからね。お昼過ぎに後二人来るんだよ。流石に一人で回すのは大変だから。」

「あ、なるほどね。」

「ただ特に昨日は酷かった。意味の分からないほど大量に人が殺到してきて店がパンクするかと思ったよ。」


 昨日のことを思い出したのか力なく笑うコリンク。

 ジソウは、サーバー統一の弊害がここにあったかとその光景を想像し、さらに自分のバイトのときそうなったらどうするかを考えて青ざめつつ、重要な事を思い出した。


「残念だけど、今日もまた尋常ではない混み方をすると思うよ。何か手を打っといたほうが良いかも。」

「えっ? それは何処情報なんだい? 確実?」


 冷や汗を流してジソウに真偽を問うコリンク。

 よほど昨日は大変だったのだろう。NPAだから疲れ知らずってことはないらしい。シフトを組んでいるほどだ。

 しかし、かなりリアルに人間をやっていることに驚いてしまう。この世界で確かに彼らは生きていて、生活しているのだ。


「ええ。私もそうだと思いますよ。」

「お、お嬢ちゃんまで。こりゃあ、本当っぽいなー。」


 なので、リミカの無慈悲な言葉でがっくりと項垂れてしまった。鬚も一緒に力無く垂れているのが可愛らしい。


 ジソウは商売人なのだからしっかりしろとも思ったが、実際、約5万の客の来店に直面したら、どんな熱血根性な商売人でも嫌気が差すだろう。

 いや、それだけではない。ジソウは思い出した。昨日は購入ですらなかったのである。無料でばら撒いただけであった。その時の虚しさはジソウには計り知れない。

 今日はお金を落としていくからまだマシだろうか?


「うむむ。分かった情報をありがとう。君たちも買いに来たんだろ? お礼に一割引するよ。」

「なんかすまないな。」

「ははは、いいってことよ。」


 やけくそになっているなと相良は同情したが、心構えと事前準備が出来る情報を得られたのだから正当な報酬かと考える。

 終わりの見えないデスレースになる事必至。昨日今日で本当にご愁傷様である。


「どうするジソウ?」

「んあ? ……そうだな、先に購入しちゃいましょうか。」

「あ、ちょっと待ってくれ。一割引に、し、て、お、く、からーっと。はい、出来た。ゆっくり決めていってくれ。」


 コリンクが操作するのを待った後、ジソウはリストを開く。

 昨日とは何が違うのかと思い、適当に一覧をスクロールする。

 軽く見た感じしっかり全品一割引にしてあるのを確認。いや疑っていたわけではないのだがなんとなくである。

 そんなことをしていたから気がづいた。初めの頃選択できなかったアーツが解禁されていたのである。

 ただし、値段が一桁も二桁も多いものばかりなのでどうせ買うことはないしと、詳細は見るのを諦めた。

 もちろん、ちゃんと検索機能を使い、【勘】と【瞑想】がリストに無いことは確認しておいた。

 また、買う気はないが下の欄に目を通していたらそれが目に付いた。


「回復魔法、初級で10000Hもすんのか。うへー。」


 使い勝手がいいもの、効果が高いものはやはり高額なのである。先ほどの言葉は訂正しよう。ある程度まとまった所持金はあるが、買う気が無いではなく、買えないが正解だ。


「まあ、支障はないけどね。」

 

 少しばかり強がってみるジソウ。

 まあ、ジソウ達はそれぞれ次に購入するアーツを決めており、昨日はそれに合わせた素材の換金しかしていないのでその独り言に偽りは無い。


 ちなみに換金の際は安く一律の値段で買い叩かれてしまうので、協会の素材買取カウンターでは行ってはいない。プレイヤー経営の素材屋を利用していた。

 その素材屋の彼は既に小さいが店兼用の倉庫を所有していた。

 話しを聞くところ、序盤であっても、いやむしろ序盤だからこそ、βテストを経験していたテスターのノウハウは遺憾なく発揮され、さらには、制限無く1日みっちりプレイが出来ることが拍車をかけたそうだ。

 特に生産を重きに置いていた者は成長スピードが早い。またそれを補助するための商人ロールの素材屋や仲介人の拡大も早く、一角の地位を築き始めていた。

 その中の一人とジソウは宴の際に知り合い、換金のため利用した。

 職人側についていたお陰で色をつけてもらったのは僥倖であった。しきりに女性陣に話しかけているところを見る限りそれだけが理由ではない気もしたが。

 現在、気にすることなくアーツを購入できるのだ。全くクレナイ様様である。


「お、あった。うん、買えるな。」


 ずらっと並ぶアーツの中から探すのが面倒だったジソウは検索機能を使い、お目当てのアーツ、【風魔法・初級】を見つけると、一割引の900Hで購入した。

 まだ所持金には余裕があったが、枠が埋まってしまっているので、見送る事にした。

 魔法の心得はあえて購入していない。

 他のメンバーも、もともと何を選ぶか決めていたようで、アーツマテリアルの購入は滞りなく終わった。

 では、次の用事である。


「相良、プランBだ。」

「プランB? そんなもんねえよ。」

「て、思うじゃん? 有るんだなあ、これが。」

「……アイアンクローを御所望か?」


 手をニギニギと動かしてジソウに向ける相良。

 命の危険を感じ、ジソウは冷や汗を流した。


「すんませんでした。新アーツですよ。新アーツ。」

「ああ、それか。」


 即座に謝ったので事なきを得るジソウ。これが古今東西、有効な処世術である。

 ジソウと相良は腰のベルトに括り付けたアーツ盤を取り出し、それぞれ【勘】と【瞑想】のアーツを取り出すとコリンクに話しかけた。


「コリンクさん、例のアレ、持って来ましたよ。」

「ん? ……おおっ!」

「【勘】と【瞑想】っす。」


 嬉しそうに驚くコリンクの手の平にアーツマテリアルを置くとどうぞご確認くださいと促すジソウ。すごい小者臭がする仕草である。

 コリンクはそんな仕草には気が付かず、ただ手の中の物に鋭い視線を送っている。ジソウの鑑定を行っているときと同じような様子である。しかし、ほんの数秒でそれは終わり、彼は顔を綻ばせた。


「なるほどね。確かに、未発見のアーツマテリアルだね。」

「で、それをどうするんですか?」

「言ってなかったかい? すまんすまん。これを解析機にかけて、データを取らせてもらえれば依頼達成だよ。五分も掛からないから待ってくれるかい。」


 コリンクは後ろを向き、棚に置いてある正方形の石板の上に二つのアーツマテリアルを置く。そして半球の透明な蓋を被せると文字盤を操作する。

 操作が終わるとやがて石版上に薄緑の光が浮かびあがり、それが時計回りに回転し始めた。


「それが解析ですか?」


 リミカが不思議そうにその石版を見ながら尋ねる。


「そうだよ。詳しくは分からないけどアーティファクトの複製品らしくてね。こうやってやると、情報を解析しては、その情報を自動で図鑑に登録してくれるという優れものなのさ。ああそうだ、安心してな。データ収集が主だからこれでアーツマテリアルを勝手に複製して売り出すなんてことしないから。権利は守るよ。」

「そうなんだ。」

「まあ、出来なくも無いけど、それやったら厳罰が待っているのさ。それに新規の物は大体特殊なアーツだからすぐ足が付くだろうし、やろうとも思わないけどね。」

「複製する過程でばれそうだしな。」

「そういうこと。」


 カウンターに肘を付き完全に接客態度を崩したコリンクが鼻をヒクヒクさせながら答えて、それに頷く一同。

 その後は手に入れた経緯を軽く話しては彼に笑われたりしつつ解析が終わるのを待った。

 そして、不意に、チーンと軽い音が響いた。

 レンジかよ。とジソウがぼそりと突っ込むと後ろでクレナイが噴いた。聞こえていたようだ。

 抗議の視線を向けられたジソウだったが俺は悪くないぞと無視をした。

 コリンクはなにやら半球の蓋に浮かぶ文字をじっと見ていたが、何度か頷くとそれをパカッと外した。


「よし、これで大丈夫かな。ありがとう、依頼達成だ。アーツを返すよ。」


 そして解析機から取り出されたアーツマテリアルは持ち主に手渡された。


「ほーい。で、報酬はどうなってるんすか。」

「こら、ジソウ。」

「なんでー。正当な要求だろー?」

「それはそうだが、そんな」

「いやいや、相良君。冒険者ならそれぐらいでいいんだよ。」


 急かすジソウを窘めようとする相良ではあったがコリンクが笑顔で制止する。


「それで、報酬の事なんだけど。」


 そう言ってカウンター下をゴソゴソ漁り出すコリンク。あれ? と言っているのがやや不安になる。

 しかも、探し物はどうやら見つからなかったのか、今度は隣のカウンター下を探し始めた。


「……あったあった。」


 そこで目当ての物がようやく見つかったようである。


「待たせて悪かったね。持ってきた数だけ報酬が出るよ。それでこれがまず一つ目の報酬の『道具プレゼントボックス引換券Sスーパー』と2500H。この引換券は協会内にある受付窓口なら何処でも交換してくれる。ただ何が当たるかは運次第ってね。」


 福引で配られるような券が4枚をカウンターの上に置き、そう説明をする。Hは自動的に振り込まれた。


「あれ、4枚も?」

「パーティー単位だからね。この報酬は。」


 なんでもないかのようにそう言い放つコリンクの言葉にジソウ達に衝撃が走る。


「ぱ、パーティー単位での報酬なんてあるんですか?」


 リミカが恐る恐るといった風に聞き返すとコリンクは、ああ。と頷いた。


「そう決められているから。」


 その返事に違和感を覚える一同。そして、思い出した。彼がNPAだということを。

 あまりにも普通に受け答えが出来るので完全に忘れてしまっていた。

 もう一度、詳しく話しを聞こうとするが、そう決められているからなぁとしか答えが返ってこなかった。この話はこれが限界のようである。


「じゃあ、次の報酬にいって良いかい?」

「あ、どうぞ。」

「二つ目の報酬は『タネタネナタネ』と5000Hだよ。」

「た、タネタネナタネ?」

「そう『タネタネナタネ』。この実はとっても美味くて、栄養価が高いんだ。温厚な動物やモンスターならこれを与えることで、高確率でテイムすることが出来る。大体、騎獣を欲しい人が求めるね。」


 コリンクは小袋に入ったピンポン球くらいの大きさがある、ピンクの実を取り出してそう説明をする。なんとなく桃太郎印のきび団子をリミカ以外は思い出した。

 しかし、何といってもテイムである。モンスターを手なずける事が出来るなんて夢が広がる話であった。


「まあ、ここらではこれでテイムできる奴なんて聞かないから、牧場まで行く必要があるかもな。」


 だが上手い話には裏があるものである。やはりそうそう簡単に手に入らないということだ。


「その牧場はどこにあるんですか?」

「東だね。海沿いに1つ村を過ぎたところから牧場への道がある。」

「東っ!」

「おっ! それはもう、決定でしょ。」

「だな。」


 東という言葉ににわかに活気づく男二人。進路が決定された瞬間である。

 コリンクは何事だろうかと思ったが、一介の商人が彼らに口を出すのは野暮だろうと考え、口を閉ざす。ただ、大変な道を選んだなと苦笑するのみだ。


「おーっし。決定。目指すは東の牧場! コリンクさん情報どうもです。」


 ジソウは威勢良く指針を掲げてから、感謝の意を伝えた。

 クレナイはそれを聞いて、ジソウの後ろで結局行く事になるのかと苦笑した。だが、付いていくと決めたのだから望むところだと意気込んだ。

 それに騎獣に興味も大いにある。モフモフがいたらいいなあと意識を飛ばす。

 彼女はモフリストであった。


「この位いいってことよ。東はモンスター強いから気をつけろよ。とりあえず、これで報酬は終わりだな。また何か見つけたら持って来てくれ。待ってるぞー。」

「おっけーおっけー了解!」

「これで終わりじゃないのか。分かった。またそのときはよろしく頼もう。」

「では、また今度ですね。コリンクさんありがとうございました。」

「お嬢ちゃん気をつけるんだぞ。」

「はい。ありがとうございます。では失礼します。」


 リミカは笑顔で一礼。しかし、後ろを振り向いたとき、置いてきぼりにされていることに気が付き慌てて出て行った。




「……ふう。行ってしまったなー。」


 ジソウ達はリミカを最後に、店を後にした。騒がしいのが帰ったなーと一息つくコリンク。ただ、昨日の今日でもう未発見のアーツマテリアルを二つも見つけてくるとは思っていなかったので気分は最高潮だ。優秀で尚且つ面白い人物と知り合えたのも大きい。

 しかし、余韻に浸っている暇は無いのである。これから大量に買い物客が来ると教えてもらったのだから何か手を打たなければならない。

 運がいいのか悪いのか分からないが、まだ客が着そうな気配はまだ無い。

 少しの間、彼は悩んだが何か閃いたようだ。一つ気合を入れると行動を開始した。


「さってと。今日も1日頑張るかね!」



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